研究課題/領域番号 |
20H04307
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
藤嶽 暢英 神戸大学, 農学研究科, 教授 (50243332)
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研究分担者 |
近藤 美由紀 国立研究開発法人国立環境研究所, 環境リスク・健康領域, 主任研究員 (30467211)
川東 正幸 東京都立大学, 都市環境科学研究科, 教授 (60297794)
内田 雅己 国立極地研究所, 国際北極環境研究センター, 准教授 (70370096)
大西 健夫 岐阜大学, 応用生物科学部, 教授 (70391638)
布施 泰朗 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (90303932)
大塚 俊之 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 教授 (90272351)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 高密度炭素生態系 / 北極圏 / 溶存有機物 / 炭素循環 / モスツンドラ湿原 |
研究実績の概要 |
本研究は、高緯度北極地域に分布する高密度炭素生態系であるモスー ツンドラ湿原に蓄蔵されている炭素の凍土融解や海洋への流出過程における量的・質的変動を解析する研究である。研究対象地はノルウェー・スバールバル諸島のステュファレット湿原であるが、COVID-19の影響によって2020年度および2021年度に予定していた現地での試料採取が敵わなかった。そこで、代替え処置として、代表者の研究室に保有していた試料を用いて、凍土融解水の太陽光による光分解実験を実施した。 活動層と凍土層から得られた融解水を石英管に分注し、12℃の水中(水深5 cm)に固定して自然太陽光に曝した。対照区は暗所12℃に設置した。積算水中照度を考慮して4つの異なる曝露期間を経たものを用意し、溶存有機炭素 (DOC)濃度測定、吸光分析、蛍光分析や 1H NMR分析による解析を行った。なお、本研究で開発した光分解システムによって初めて実環境に近い水中光分解実験が可能となった。ただし、融解水が無菌的ではなかったために、微生物分解と光分解の作用を分離評価することができなかった。そこで、ろ過除菌処理を行った融解水による光分解実験を実施した。積算照度8000 klxhに至るまで活動層と凍土層の両方でDOC濃度の有意な変化は認められず、光分解はDOMをCO2への無機化までは誘導しないことが示された。蛍光分析の結果からは、光が蛍光性をもつ腐植成分から蛍光性を持たない成分に変性させることが示唆された。さらに、1H NMR分析の結果からは、活動層では光条件下で炭水化物性成分の減少が認められ、凍土層では大きな変化が認められなかったことから、活動層と凍土層は異なる光感受性をもつことが示唆された。以上の成果は、温暖化による凍土層融解の促進に伴って溶出するDOC特性明らかにしたものとして有益な情報である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
COVID-19の影響によって海外出張が不許可となったために、本研究の最大の特徴である北極湿原内の永久凍土層のサンプルの調達が困難となった。また、現地で採取予定であった河川水の海洋流出による溶存有機炭素のフラックス定量測定が不可能になった。代替え案として、代表者の研究室に保有していた試料を用いて、凍土融解水の太陽光による光分解実験を実施したものの、保有サンプル量が少ないために、研究成果が得られやすい試験を優先事項とし、試験内容を絞ったことで成果が得ることに遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度の2022年度に調査予定であった予算を繰越、なんとしてでも現地調査を実施する予定であった。しかし、2022年度に調査出張に踏み切ったもののCOVID-19の影響は依然として続き、搭乗予定機の欠航、試料採取地における北極グマの出現による緊急退避によって想定した永久凍土採取が実施できなかった上に、現地でのモニタリングデータも取得できなかった。そこで、代表者の研究室に保有していた試料を用いて、凍土融解水の太陽光による光分解実験を実施する対応策を用意した。
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