研究課題
本研究は、地域ごとの大気環境中のPM2.5の化学的特性及び肺非結核抗酸菌症(肺NTM症)の地域特異性を把握することであり、粒子状物質中の化学成分と微生物の相互作用の把握を目的とする。肺NTM症の中でも90%を占めるMAC菌(Mycobacteruim intracellulareとMycobacterium avium)の割合において日本の南西部ではMycobacteruim intracellulareに罹患している患者が多く、これらと南西部で高い濃度であるPM2.5に着眼して進めている研究である。具体的には大気環境中に存在する化学成分として、糖類、界面活性剤、煤などの有機物質とMAC菌との相互作用を捕集した大気エアロゾルサンプルにて検証を行っている。地上付近数十メートルでの測定を全国に分散する形で5拠点(北海道札幌市、東京都清瀬市、石川県珠洲市、大阪府堺市、福岡県福岡市)にて進める。頻度としては、季節変動の把握を目的として、年4回のサンプリングを進める。さらに、自由対流圏での拡散条件の把握を行うために、ヘリコプターなどを活用してサンプリングを進める。メタゲノム解析、化学成分解析を進める。自由対流圏のサンプルに関しては煙霧が多く大陸から飛来する冬季や、黄砂が多く飛来する春季など、異なる季節での捕集にてサンプルとデータ蓄積を行う。同時に、これらの測定結果で得られた解析結果を基に、大気中のバイオエアロゾルの挙動を擬似的に検証する擬似大気チャンバーにてシミュレーション実験を進める。大気中に浮遊する細菌などを含むバイオエアロゾル活性保持メカニズムの把握、検証を限定的な環境下で行うことで、肺NTM症などの感染が起こりやすい状況をより明確化する。それにより、感染症に対応できる生活環境の整備、状況の把握が可能となり、予防的な疾病問題の低減化が推進できる。
3: やや遅れている
分担・協力研究者の多大な支援によって全国5拠点でのサンプリング体制が確立している。新型コロナウイルス対策の影響があったためサンプル収集に追いつくことに集中した。また、各拠点組織には柔軟に対応していただき、ある程度のサンプル数を確保できているが、当初の予定である季節変動についての調査においては各地点における季節ごとサンプル数の減少となっている。サンプルの収集の遅れからまとまった数のサンプル数に至らず解析の推進においてはやや遅れ気味である。アウトリーチ活動では2022年度のバイオエアロゾルシンポジウムにて本研究プロジェクトについて口頭で発表する機会を得ており、本研究の推進についての情報共有や、今後の研究活動に向けた議論の展開ができている。本研究内容を広く知っていいただく機会と同時に、今後の新たな展開に向けたアドバイスをいただくことができている。
新型コロナウイルスによるパンデミックの経験から柔軟に対応しつつ取り組んでいく研究体制の構築ができた点は今後の研究を推進する上で具体的な方策の確立となっている。このため、今後不測の事態が再度発生した場合でもサンプリングの継続は可能である。残りの期間を最大限活用して、不足しているサンプルの収集、季節変動の把握に向けた調査が必要な場合は対応を進めていく。化学物質の解析のために訪問を予定していた海外の研究施設では機器の不具合が解消しており今年度中の訪問、解析の見通しが立っている。2021年度の大気環境学会で開催した特別集会の様に、社会全体への情報発信の継続と併せ、本研究プロジェクトに係わるメンバーによる、議論の場をシンポジウムなどの開催にて実施することを予定している。この様な議論の場を出来るだけ多く作り、より意義のある研究を推進していく予定である。また、情報発信についても、様々な手法を活用し、更なる情報の共有を心掛ける。より多くの方々に、本研究についての理解を深めていただくと共に、感染症対策のための情報提供が出来る様に努力する。大気環境中の大気汚染と微生物の相互作用の把握についての取り組み、あらたなアプローチで知識構築を行い、感染症対策として健康維持に向けた取り組みを目指す。
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