研究課題/領域番号 |
20H04334
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
松本 義久 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 准教授 (20302672)
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研究分担者 |
松尾 光一 広島大学, 放射光科学研究センター, 准教授 (40403620)
泉 雄大 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 主任研究員 (20595772)
横谷 明徳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学研究所, 統括グループリーダー(定常) (10354987)
石合 正道 国立研究開発法人国立がん研究センター, 研究所, 施設長 (90298844)
林 宣宏 東京工業大学, 生命理工学院, 准教授 (80267955)
島田 幹男 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 助教 (20548557)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK) / 放射線 / DNA修復 / タンパク質リン酸化 / タンパク質間相互作用 / タンパク質構造解析 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、DNA二重鎖切断(DSB)のセンサーであるDNA依存性プロテインキナーゼ(DNA-PK) が何をしているのか、何のために存在するのかを明らかにすることである。 まず、非相同末端結合(NHEJ)によるDSB修復においてDNA-PKの重要な基質と考えられるXRCC4タンパク質について、構造解析、損傷部位への動員機構解析などを通じて、DNA-PKによるリン酸化の意義を明らかにすることを試み、以下の成果が得られた。(1)XRCC4のDNA-PKによるリン酸化部位のセリン、スレオニンをアスパラギン酸に置換した変異体の放射光円二色性(CD)スペクトル、X線小角散乱(SAXS)解析を行った結果から、DSB修復の足場となりうるXRCC4の多量体、フィラメント構造形成に対するリン酸化の影響が示唆された。(2)細胞内局所レーザー照射法によるライブセルイメージング解析から、DNAリン酸化・脱リン酸化酵素PNKPの損傷部位への動員にXRCC4およびDNA-PKが関与することを明らかにした。(3)XRCC4の小頭症、発育不全を呈する患者に見られる変異や、がんリスクとの相関が報告されている多型について、放射線感受性、γ-H2AXフォーカスなどを指標とした機能解析を行い、DNA二重鎖切断修復機能が低下していることを明らかにした。 また、DNA-PKのDSBへの結合を担うKu70あるいはKu86遺伝子欠損細胞が低線量率放射線に対して高線量率放射線と同等あるいはより高い感受性を示す、すなわち線量率効果が減弱あるいは逆転することを示した。細胞周期の解析の結果から、Ku70あるいはKu86欠損細胞は、低線量率放射線照射中にG2/Mチェックポイントが強く働いて放射線感受性が高いG2/M期に蓄積することが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、DNA二重鎖切断の認識と修復及び細胞応答統御においてDNA-PKが何をしているのか、何のために存在するのかを明らかにすることを目的としており、NHEJによるDSB修復に関わるXRCC4タンパク質のリン酸化の意義の解明と、新規基質の探索およびリン酸化の意義の解明を二本柱としている。 一つ目のXRCC4タンパク質のリン酸化の意義の解明に関しては、直ちに結合できないDSBに遭遇した場合に、損傷の形状に応じて他の修復酵素(ヌクレアーゼ、ポリヌクレオチドキナーゼ・ホスファターゼ、DNAポリメラーゼなど)を動員するために、DNA-PKcsによるXRCC4のリン酸化が重要な役割を果たすであろうという作業仮説に基づいて研究を進めている。研究実績の概要に記載した通り、CDスペクトル、SAXSによる構造解析、細胞内局所レーザー照射法によるライブセルイメージング解析などを実施した。上記の通り、XRCC4のリン酸化部位のアスパラギン酸置換体の解析から、DSB修復の足場となりうるXRCC4の多量体やフィラメント構造へのリン酸化の影響が示唆された。また、ポリヌクレオチドキナーゼ・ホスファターゼのDNA損傷部位への動員におけるDNA-PKcs、XRCC4の役割を明らかにした。現在、別のプロセシング酵素の制御機構解析を進めている。 二つ目の新規基質の探索およびリン酸化の意義の解明に関しては、1年目に準備を行った。2年目からAIを活用した新たなプロテオミクス手法による新規基質の探索および同定された分子の解析を進めたいと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
リン酸化の意義に関して、CDスペクトル、SAXSによる構造解析、細胞内局所レーザー照射によるDNA損傷部位への動員解析が進行している。DNA修復能の解析法としては、放射線感受性、γ-H2AXフォーカスなどを指標としているが、より直接的な評価法を確立したい。一つは、組換えシグナル配列をもつ基質プラスミドとRAG1、RAG2発現ベクターを用いたV(D)J組換えアッセイ系である。この方法では、制限酵素による切断の場合と同様に直ちに結合可能な反応(signal joint)と、末端にヘアピン構造を有し、結合に先立って前処理(プロセシング)を必要とする反応(coding joint)を見ることができる利点がある。さらに、制限酵素処理したプラスミドの細胞抽出液中での修復反応を定量的PCRで解析する方法、あるいは細胞にトランスフェクトし遺伝子発現を指標として解析する方法などを検討している。これらの方法は、ホスファターゼ処理などを行うことにより、さまざまな末端形状を持つ基質の修復反応を見ることが可能という点に特色がある。前項に記載した通り、XRCC4タンパク質のリン酸化の意義の解明に関しては、直ちに結合できないDSBに遭遇した場合に、損傷の形状に応じて、他の修復酵素を動員するために重要であろうという作業仮説に基づいて研究を進めていることから、このような実験系の確立が今後の研究を進める上で重要と考えている。 また、新規基質の探索およびリン酸化の意義の解明に関しては、2年目にAIを活用した新たなプロテオミクス手法による新規基質の探索を計画している。これに加えて、DSBに対する応答の中で遺伝子発現制御におけるDNA-PKの標的を探る試みとして、これまでの研究で得られたRNA-Seqによるトランスクリプトーム解析データの詳細な分析を行っている。
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