研究課題
我々は、放射線によるゲノムストレスに対してヒストンH2AXが、損傷部位より放出され、クロマチンを保護するバリヤー蛋白質としてではなく、シグナル因子として働き、ゲノムの統合性維持に寄与することを見出している。このH2AXの動的な変化は、細胞核内でのdenovoのNAD代謝とpositive feedbackの関係にあり、H2AXの動的変化に伴う細胞核内でのNAD代謝の活性化は、細胞質からミトコンドリアまでのエネルギー代謝に影響を与えることが明らかになりつつある。H2AXの動的変化は、TIP60によるH2AXのアセチル化に依存しているが、我々の今回の研究結果から、H2AXのアセチル化を介したH2AXの動的変化は、線量率に大きく影響され、細胞ごとに多様であることが明らかになった。またそれに伴って、細胞全体のNAD代謝経路も多様であることが示され、線量率効果の分子レベルでの理解が、細胞核内でのdenovoのNAD代謝とクロマチン制御の視点から見出すことが可能であることが見えてきた。また我々が見出した細胞核内のNAD代謝は、主に肝臓がんのcell lineで亢進することが明らかになり、この知見をもとにガンの特異的代謝として知られているWarburg効果とは異なる、放射線発がんにおける特異的NAD代謝機構の解明の足がかりを見出すことができた。また今回、H2AXの動的変化を促す、クロマチン構造変換因子を同定し、この知見をもとに数理モデルを構築し、H2AXのアセチル化の意義を探る研究も同時に展開している。
2: おおむね順調に進展している
これまでの研究により、H2AXの動的変化は、放射線の線量率によりかなりvariationを持つことが見出された。このことは、それに伴う細胞核内でのNAD代謝は、線量率の変化によって多様であることを示唆している。多様性が生まれる仕組みを分子生物学のみで紐解くことは困難であるが、これまでの一連の我々の研究から数理生物学的視点の重要が認識できた。本課題を遂行することにより、今後、がん代謝に新たな視点を提供するきっかけを得たことは、極めて意義深い。これらのことから研究は、概ね順調であると考えられる。
今回、我々の見出したゲノム損傷部位でのde novoでのNAD代謝は、細胞核内でのイベントである。これまでの研究からは、細胞質で行われるNAD代謝に着目した研究が主であり、本課題では、細胞核内でのde novoでのNAD代謝が、線量率の違いで細胞質で行われるNAD代謝経路とどのようにカップリングしているのかを見定めることが主眼である。具体的には、これまでの研究で明らかにされている細胞質でのNAD代謝に関与することが知られている、代謝酵素のノックダウンにより、細胞核内でのNAD代謝からミトコンドリアまでの経路を同定していく。さらに、これらの研究に加え、今後は、ゲノムストレスにおいて、細胞核内でのde novoでのNAD代謝と細胞質で行われるNAD代謝の存在意義を明らかにする研究にも着手したい。そのためには、NAD代謝の変動を時間経過で追跡し、数理解析などを駆使して、モデル化し、がん細胞と正常細胞を用いて比較定量し、がんのエネルギー代謝の新知見の発掘にも取り組む予定である。
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すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (3件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 19704
10.1038/s41598-020-76898-2
http://house.rbc.kyoto-u.ac.jp/mutagenesis2/