研究課題/領域番号 |
20H04338
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研究機関 | 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構 |
研究代表者 |
横谷 明徳 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 量子生命科学領域, 統括グループリーダー(定常) (10354987)
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研究分担者 |
黒川 悠索 認定NPO法人量子化学研究協会, 研究所, 研究員 (30590731)
鵜飼 正敏 東京農工大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80192508)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ハロゲン化DNA / DNA損傷 / 放射線照射効果 / 電子状態 / X線光電子分光 / 量子化学計算 / 発光分光 |
研究実績の概要 |
本年度では、ハロゲンの一つであるBrを含むDNA関連分子の電子状態の情報を得るためにX線光電子分光及びX線吸収微細構造解析を行ったところ、Brの存在により内殻準位と非占有準位に顕著な影響は与えないものの、価電子帯から伝導帯への電子遷移が起こりやすくなるため損傷生成につながる電荷移動も起こりやすくなることが示唆された。さらにはDNA内でリン酸基の部位でもバンドギャップが小さくなることからこれがDNA内の電荷輸送の役割を果たしていることも示唆された。またBrを含む分子は、非弾性散乱による低エネルギー電子の発生効率が高くなるため、解離性電子付着といった低エネルギー電子による脱Br化反応を伴うDNA損傷が高頻度に誘発され放射線増感を生じさせている可能性も考えられる。 一方、これらの分子について、ハートリーホック法及びSAC-CI法により量子化学計算を実施したところ、上述の分光実験結果から得られたエネルギー準位とは大きな違いを生じることが分かった。これは実際の実験試料が固体試料であるため、試料ホルダーを通じた電荷の移動が起こることに起因すると考えられる。この溝を埋めることは、今後の大きな課題である。 さらに液体分子線発生技術を用いて、細胞中の環境を模した水溶液中のDNA関連分子に対する内殻吸収後の可視・近紫外発光分析実験を実施した。その結果ヌクレオチドの一種であるシチジン1リン酸からの発光観測に成功し、光電効果を起こした分子に関するオージェ電子放出後の水和塩基二価イオンの緩和過程というこれまでにない新しい視点を提供することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実験については、放射光X線光電子分光実験が順調に進展し、ハロゲンのうちでもBrを含むBrウラシル、Brデオキシウリジン及びBrデオキシウリジン1リン酸の各分子について光電子スペクトルデータの取得に成功した。量子化学計算については、Gaussianを用いたハートリーホック法及びSAC-CI法による基底状態の分子軌道についの予備的な計算結果を得た。 さらには、液体分子線発生実験装置による安定した観測を行うことができ、DNA関連分子の内殻イオン化・励起後の緩和過程に伴う可視・近紫外発光スペクトルが初めて測定されたことは特筆される。 一方残念ながら、本年度は新型コロナ感染拡大に伴い予定されていた国内外の学会がキャンセル・延期となり、成果発表をする機会を多く失った。
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今後の研究の推進方策 |
Br以外のハロゲン元素を含む塩基、ヌクレオシド及びヌクレオチドに測定対象を拡張するとともに、量子化学計算の結果と実験により得られた分子軌道のエネルギー準位の比較を行う。また光電子分光実験の成果について論文の原稿を準備しており、なるべく早い時期に専門の学術誌へ投稿する予定である。また学会等の発表を積極的に実施して行く。 一方、液体分子線発生実験装置を発光分光測定については、本装置を運用していたSPring-8の実験ステーションが2020年度でシャットダウンされたため、今後の実験をどのように実施するかの検討を進める必要がある。既に得られている成果については、学会発表、論文発表を行う予定である。
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