研究実績の概要 |
本研究の目的は、ハロゲン化DNAを有する細胞の放射線増感メカニズムがハロゲン近傍のDNAの局所の電子物性変化という量子事象に根差している可能性を探る点にある。昨年度まで測定対象としてきたBrを含むDNA塩基(BrU)とそのヌクレオシド(BrdU)とヌクレオチド(BrdUMP)、フッ化ウラシル(FU)、塩化ウラシル(ClU)、ヨウ化ウラシル(IU)、およびハロゲンを含まないウラシル(U)の各塩基に加え、新たにフッ化ヌクレオシドのフルオデオキシウリジン(FdU)及びヌクレオチドのフルオデオキシウリジン1リン酸(FdUMP)を対象とした光電子分光(XPS)測定を実施した。2及び2.5keVの単色X線を励起光として用い、塩基とヌクレオシドについてはペレット(直径10 mm、厚さ0.3 mm)、ヌクレオチドについては水溶液(約200mg/mL)を金属板上に滴下した後乾燥した薄膜を試料とし、高エネルギー加速器研究機構・放射光実験施設のBL-27AでXPS測定を行った。その結果、ハロゲンの重さと相関してウラシル塩基の価電子帯のエネルギーが小さくなり金属様の性質が強くなること(Izumi et al. Phys. Chem. Chem. Phys. 26, 4422-8211;4428, 2024)、一番軽いフッ素(F)であっても、ヌクレオチドの価電子帯の結合エネルギーをの1.9eVに対して1.0eVまで小さくする効果があることが分かった(Onuma et al. Nucl. Instr. Meth. Phys. Res. B 547, 165225, 2024)。 また本研究成果を国際会議等で発表する中で、バンドギャップを縮める効果がin-gap-bandという特殊な電子状態が生み出している可能性を原子力機構の固体電子物性の理論研究者に指摘され、そのグループと共同研究を進めるに至った。
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