研究課題/領域番号 |
20H04341
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
石原 康宏 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 准教授 (80435073)
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研究分担者 |
冨永 貴志 徳島文理大学, 神経科学研究所, 教授 (20344046)
大黒 亜美 広島大学, 統合生命科学研究科(総), 助教 (20634497)
大島 隆幸 徳島文理大学, 薬学部, 准教授 (10397557)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ミクログリア / 化学物質 / ケモカイン / 発達神経毒性 |
研究実績の概要 |
本研究では、化学物質曝露により生じる発達神経毒性について、発達期ミクログリア活性とミクログリアが放出する炎症性分子に着目して研究を遂行する。昨年度までの研究により、バルプロ酸を胎児期に曝露すると発達期のミクログリア活性化し、成長後に認知機能や社会性の異常、反復行動を示すこと、また、ネオニコチノイド系農薬のであるクロチアニジンおよびイミダクロプリドの胎児期曝露は、発達期ミクログリアの活性低下と成長後の社会性の異常、反復行動を示すことを明らかにしてきた。発達期のミクログリアの反応は正反対であるが、ともに成長後の行動異常を呈するという興味深い成果である。このメカニズムを解明するために、バルプロ酸による影響に絞って解析を進めた。 次世代シーケンス法により胎児期バルプロ酸曝露による影響を受ける遺伝子を網羅的に解析したところ、7種類の候補遺伝子が同定された。これらの精査を進め、バルプロ酸曝露によりケモカインであるCCL3の発現が増加することを明らかにすることができた。マウス脳よりCD11b磁気ビーズを用いてミクログリアを単離し、ウエスタンブロットにより解析したところ、CCL3は発達期のミクログリアで増加することが示された。CCL3の受容体はCCR5である。そこで、CCR5のアンタゴニストであるマラビロクを発達期に投与したところ、成長後の行動異常は抑制された。以上の結果から、発達期に活性化したミクログリアが放出するCCL3が、成長後の行動異常に関わることが明らかとなった。これらの成果を論文として纏め、投稿したところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究実績の概要の項に記した通り、バルプロ酸により生じる発達神経毒性において、発達期のミクログリアが放出するCCL3が成長後の行動異常を引き起こすことを明らかにすることができた。発達神経毒性の原因となる分子を同定することができたことから、進捗状況として『当初の計画以上に進展している』を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の計画は大きく以下の2点である。①CCL3はどのようなメカニズムで成長後の行動異常を引き起こすのか。②発達期脳内ケモカインの増加は化学物質による発達神経毒性に共通の機構であるか。 ①について、CCL3はケモカインであり、細胞のケモタキシスに関わる。神経幹細胞が脳内を移動することはよく知られているが、本研究においてCCL3が増加する生後5-10日齢ではミエリン化が行われている時期であり、オリゴデンドロサイト前駆細胞の移動が生じている。そこで、CCL3を放出するミクログリアとオリゴデンドロサイト前駆細胞との細胞間相互作用に焦点を当てる。 ②について、昨年度までに、ネオニコチノイド系農薬の胎児期曝露により発達期ミクログリア活性が低下し、成長後に行動異常が引き起こされることを明らかにしている。ケモカインの観点からみると、発達期のミクログリア活性の低下は放出するケモカインの低下を引き起こすため、少ないケモカインの存在下でも異常が生じることが示唆される。この系においてもケモカインの関与を検討し、正常な脳発達におけるケモカインの重要性とその破綻による発達神経毒性をメカニズムベースで明らかにしたい。
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