研究課題/領域番号 |
20H04354
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
村上 道夫 大阪大学, 感染症総合教育研究拠点, 特任教授(常勤) (50509932)
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研究分担者 |
竹林 由武 福島県立医科大学, 医学部, 講師 (00747537)
野村 周平 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 特任助教 (10799282)
坪倉 正治 福島県立医科大学, 医学部, 教授 (20527741)
小野 恭子 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エネルギー・環境領域, 主任研究員 (90356733)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 災害関連健康リスク / 環境リスク / リスク評価 / 幸福度 |
研究実績の概要 |
本研究では、「幸福余命(幸福な気分で過ごす生涯の長さ)」と「損失幸福余命(失われる幸福余命の長さ)」の指標をリスク評価に適用する。男女別に幸福余命を算出し、損失幸福余命の指標を様々な環境及び災害関連健康リスク評価に用いる。本研究は、5つのサブテーマ(1. 男女別幸福余命の算出、2. 放射線及び環境関連健康リスク、3. 災害による疾病などの有病率と罹患率の算定、4. 各疾病などによる幸福度低下の評価、5. 環境及び災害関連健康リスク要因による損失幸福余命の算出)に分けて研究を実施している。 2021年度には、JMDCのレセプト等データを用いた解析によって、東日本大震災および福島原発事故後、福島県、とりわけ、浜通り地域において、高血圧症、脂質異常症、糖尿病、精神疾患が概して、9年間にわたって増加していることが確認された。性別・年齢階層別に見ると、女性の40-74歳において、これらの4疾患の増加が高かった。一方、新型コロナウイルス感染症流行後、4疾患とも全国的に増加しており、とくに、男性0-39歳における増加が顕著であった。 また、福島県内の病院にてがん患者らを対象としたアンケートについては、同意のある方から約600名程度の回答結果を得ることで、幸福度の集計を行った。また、一般集団及びがん患者合計5850名を対象にしたアンケートも実施し、がんり患の有無と幸福度の評価の関係解析を行うことができた。さらに、福島災害後の周辺自治体における生活習慣病や精神健康の悪化などの調査のまとめ、被ばく量や水道水等のモニタリングデータの収集などを継続している。 この他に、災害後のがん検診などの受診率の低下の要因解析並びに、それによるがんリスクの増加の解析、災害前後での余命の延長と各種主要疾病の損失余命の短縮を評価した。このように、幸福余命を用いたリスク評価に向けた準備を着実に進めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
レセプト等データを用いた解析やがん患者らを対象にしたアンケート解析を進めることができ、環境関連および災害関連の健康リスク評価のための準備が順調に進んでいる。2021年度中に実施できなかったアンケートもあったが、繰り越しを行うことで、順調に実施できた。2021年度の成果として、2報の査読付き国際誌、1報の査読なし国内誌に掲載された。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、これまでに行ってきたアンケートをまとめるとともに、がんや精神健康、その他疾病と幸福度との関連を評価し、疾病に伴う幸福度の低下を解析する。がんについては、診断からの年数やその他がんの特性にも着目し、解析を実施する。 次に、環境及び災害関連健康リスク要因として、福島災害の放射線被ばく、大気中PM2.5、ラドン、飲食物中ヒ素、福島災害後の糖尿病、精神健康、がん受診率低下などに着目し、被ばくやばく露にともなう死亡率の上昇や災害後の有病率の上昇を解析する。ここで、これまでに解析や収集を進めてきた福島災害後の生活習慣病や精神健康の悪化などの調査結果、被ばく量や環境関連リスク要因のモニタリングデータなどを活用する。 これらのデータから、生命表を組み合わせて解析することで、環境及び災害関連健康リスクの評価を実施し、損失幸福余命を算出する。対象集団として福島災害の影響を受けた地域と全国とに分けて実施するほか、性別や年齢階層別の評価も行う。これにより、多様なリスク要因について、その大きさを同一の指標で比較することが可能となり、余命の延長とともに人々の幸福感の向上を目指す社会への再構築に向け、重要性の高いリスクを明らかにできる。 研究代表者、研究分担者、研究協力者間で密に会合を持って研究を進める。得られた知見は、速やかに国内外の学会や学術雑誌等での公表を行うほか、広く一般への情報発信にも努める。
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