本年度は魚類の肝S9におけるPFASの代謝に関する研究およびイオン性有機化学物質の生物濃縮の予測手法の開発を行った。6種のPFASを対象に肝S9の代謝実験を行ったが、これらの物質の代謝は認められなかった。既報のPFAS暴露実験において魚類中のPFAS濃度の低下が確認されていることから、PFASの体外への排出は腎臓や呼吸など肝代謝以外の経路の関与が大きいと推察された。過年度に実施した医薬品の代謝実験においても多くの物質については代謝が確認されていないことから、PFASと同様の排出経路をたどる可能性がある。 ヒトのアルブミン、脂肪酸結合タンパクのアミノ酸構造を鋳型として、ホモロジーモデリングによってニジマスの各タンパク質の推定構造を構築した。その後、これらを対象に米国EPAでリストアップされている74種を含む94種のPFAS、文献調査で生物濃縮実験が実施されている24種の医薬品について、ドッキングシミュレーションにより各タンパクとの結合親和性(タンパク結合定数)を推定した。シミュレーションにより得た結合親和性を変数として、各物質の生物濃縮係数(BCF)および取り込み・排泄速度定数との関係を検討した。その結果、PFASのBCFはアルブミン(4E99 Site I、Site II)、脂肪酸結合タンパク(3STM)ともに有意な相関関係が認められた。これらのデータをもとに、PFASのBCFについて機械学習を用いた予測手法を構築した。一方、医薬品のBCFは各タンパクの結合親和性との間に相関関係は認められなかった。各タンパクの結合ポケットがPFASと医薬品で異なることが要因と考えられた。医薬品については、魚類を対象とした生理学的薬物動態モデルを適用し、魚体の各組織中の濃度予測手法を検討した。
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