研究課題/領域番号 |
20H04359
|
研究機関 | 国立保健医療科学院 |
研究代表者 |
秋葉 道宏 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (00159336)
|
研究分担者 |
小坂 浩司 国立保健医療科学院, その他部局等, 上席主任研究官 (60370946)
三浦 尚之 国立保健医療科学院, その他部局等, 主任研究官 (70770014)
佐野 大輔 東北大学, 工学研究科, 教授 (80550368)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | A型肝炎ウイルス / E型肝炎ウイルス / 医薬品 / ノンターゲット分析 / 新型コロナウイルス / 下水 |
研究実績の概要 |
2021年度は,人口規模の異なる二つの都市の下水処理場において流入下水試料を原則2週に1度の頻度で採水し,A型およびE型肝炎ウイルス,新型コロナウイルスの調査を継続した。そのうち,一つの都市で収集した試料では,下水試料を陰電荷膜でろ過することにより水中の固形分と共にウイルス粒子を膜に吸着させ,膜から直接ウイルスRNAを抽出・精製する手法を検討した。この手法では,A型およびE型肝炎ウイルスは不検出だったが,新型コロナウイルスRNAは検出された。新型コロナウイルスRNAの検出に,5つのリアルタイムRT-PCRアッセイ(CDC_N1,N2,N3,Sarbeco,NIID系)を比較した結果,CDC_N2系による検出感度が最も高かった。本研究で検討した手法により,新型コロナウイルス感染症の流行の第4波から第6波に対応して,下水試料中の新型コロナウイルスRNA濃度および検出率が変動することが示された。 無承認無許可医薬品に該当する製品から検出事例がある医薬品成分を含めた200以上の化学物質について,6種の下水試料を対象にLC-Orbitrap/MSを用いてターゲットスクリーニング分析を行った。無承認無許可医薬品に含まれる7種の医薬品成分(シブトラミン,シルデナフィル,タダラフィル,フェンテルミン,ブホテニン,フルオキセチン,ヨヒンビン)は検出されなかったが,下水試料から15~20種程度の物質が10 ng/L以上の濃度で検出された。検出された主な物質は医薬品類であったが,それ以外には農薬,人工甘味料,工業用化学物質も検出され,μg/Lの濃度で検出された物質もあった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では,下水処理場の流入下水を対象としたモニタリングに基づき,A型およびE型肝炎ウイルスの不顕性感染も含めた感染者の発生状況,および無承認無許可医薬品の種類や服用者数を明らかにするために,以下の3つのタスクに取り組むこととしている。タスク1:下水中のA型・E型肝炎ウイルス調査。タスク2:下水中の無承認無許可医薬品調査。タスク3:下水中のウイルス・医薬品濃度と訪日客数・帰国者数・食品輸入量等の因果関係分析。 2021年度は,当初の計画通りタスク1および2の研究を遂行し,実際の下水試料を用いてウイルスおよび医薬品の検出手法を検討した。タスク1では,コロナ禍において訪日客が減少し,海外からの輸入事例が著しく減少しているためA型肝炎ウイルスは不検出だったが,新型コロナウイルスは検出された。タスク2では,都市排水や畜舎排水を含む水道原水試料を用いて検討したLC-Orbitrap/MSによるノンターゲット分析の条件を実際の下水試料に適用し,医薬品類の存在を確認した。 新型コロナウイルス検出に関する検討は当初の計画にはなかったが,本研究課題では我が国において輸入例の割合が高い多種多様な病原微生物や無承認無許可医薬品群の中から,監視すべき微生物や医薬品を選定する際の科学的根拠を得ることを目指しているため,意義のある研究として進めた。 以上の結果から,今年度は実施計画に沿っておおむね順調に研究を遂行することができたと判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は収集した下水試料を用いてウイルス・医薬品の測定を継続し,タスク3:下水中のウイルス・医薬品濃度と訪日客数・帰国者数・食品輸入量等の因果関係分析に取り組む。下水試料から検出された新型コロナウイルスについては,シーケンス解析あるいはリアルタイムPCRによる変異株の解析も検討する。 昨年度に引き続き,より多くの下水試料を対象に,LC-Orbitrap/MSによるターゲットスクリーニング分析を行い,さらにノンターゲット分析についても検討する。後者については,候補物質として挙げられた物質のうち,注視すべきと考えられる医薬品類について,試薬を購入し,存在の有無を検討する。
|