研究課題/領域番号 |
20H04372
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
木原 伸浩 神奈川大学, 理学部, 教授 (30214852)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 酸化分解性高分子材料 / ジアシルヒドラジン / 次亜塩素酸ナトリウム水溶液 / 窒素酸化物 / 酸化分解性エラストマー / 2-チオエチルエステル / 酸化分解性ポリエステル / エポキシ樹脂 |
研究実績の概要 |
ビニルポリマーは主鎖が炭素鎖だけからなるため、主鎖にジアシルヒドラジン構造を導入することはできない。そこで、短いビニルポリマー鎖(オリゴマー)を末端で連結するのではなく、内部で連結することで、モルホロジーは異なるものの、ビニルポリマーにジアシルヒドラジン構造を導入することを検討した。スチレンを連鎖移動剤の存在下でジアシルヒドラジン構造を持つ二官能性モノマーと共重合したところ、ゲルを生成することなく高分子量のポリスチレンが得られた。このポリスチレンは次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって酸化分解し、低分子量のポリスチレンを与えた。 ジアシルヒドラジンは強い水素結合性部位であるため、エラストマーのハードセグメントとなることが期待できる。ソフトセグメントとなるポリTHFの末端同士をジアシルヒドラジンで連結したポリマーはエラストマーとしての性質を示し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液によって酸化分解し、可溶化した。 ジアシルヒドラジンを一酸化窒素と二酸化窒素の混合ガスで処理したところ、カルボン酸とアシルアジドまで分解し、水を使わずに酸化分解できることを明らかにした。ポリジアシルヒドラジンの粉末も、一酸化窒素と二酸化窒素の混合ガスによって低分子量成分まで分解した。 前年度に、2-チオエチルエステルが新しい酸化分解性官能基として利用できることを明らかにした。2,2-チオジエタノールをジオール成分とするポリエステルを合成した。mCPBAで酸化したところ、スルホン型のポリエステルとなり、これを炭酸ナトリウム水溶液で処理したところ、完全に可溶化した。 グリシジルスルフィドを環状酸無水物と加熱することで交互共重合し、ポリエステルが得られた。このとき転移が併発し、ジオール成分は1,2-ジオール型だけでなく1,3-ジオール型が混じってきた。得られたポリエステルは、過酸で酸化した後、塩基で処理すると可溶化した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
高分子材料のうち約2/3はビニルポリマーである。ビニルポリマーはその主鎖が炭素鎖だけからなることから、ラジカル開環重合性の特殊なモノマーを使わなければ主鎖にジアシルヒドラジンのような官能基を導入することは不可能とされていた。酸化分解性高分子材料では分解性官能基を主鎖に導入する必要があることから、本研究を開始した時点では、酸化分解性高分子材料のターゲットは重縮合/重付加系ポリマーだけであった。しかし、ジアシルヒドラジン構造を持つ二官能性モノマーと連鎖移動剤を組み合わせることで、内部連結型の酸化分解性ビニルポリマーが容易に得られることを明らかにした。これにより、酸化分解性高分子材料の対象が一気に広がった。 これまで、ポリジアシルヒドラジンの酸化分解には次亜塩素酸ナトリウム水溶液を用いてきたことから、酸化分解の実施には制限があった。当初の研究計画では、乾式酸化分解を行なうために、水に相当する官能基を分子内に持たせたポリジアシルヒドラジンの合成を検討するものとしていた。しかし、酸化性気体に一酸化窒素と二酸化窒素の混合ガスを用いると、単純なジアシルヒドラジンであってもニトロソ化と極めて容易な加水分解によりカルボン酸とアシルアジドまで分解することを見出した。気体は浸透性が高いため、狭いすき間にある接着性の酸化分解性ポリマーの酸化分解の強力な手法となることが期待される。 2-チオエチルエステルが新しい酸化分解性官能基として利用可能なことを見出し、グリシジルスルフィドが新しい酸化分解性エポキシ樹脂として利用可能なことを明らかにした。グリシジルスルフィドは、酸化分解性をもつ初めてのエポキシ樹脂である。ジアシルヒドラジンは強い水素結合部位であるため、ポリジアシルヒドラジンは硬いポリマーとなるが、2-チオエチルエステルは柔らかく、同じ酸化分解性でも、その物性においてジアシルヒドラジンと相補的である。
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今後の研究の推進方策 |
様々なビニルポリマー、特に粘着剤として使われるポリアクリル酸エステルをジアシルヒドラジン構造で内部連結することで酸化分解性を導入し、ジアシルヒドラジン構造の導入割合と粘着性および酸化分解性との関係を明らかにする。 ジアシルヒドラジン構造を持つ塗料や接着剤を用いて、一酸化窒素と二酸化窒素の混合ガスを用いた乾式分解によって、局所的な分解や狭いすき間での分解が効率的に進行することを明らかにしていく。特に、分解性接着剤を用いた材料の一時的な固定が可能であるだけでなく、酸化分解にハロゲン化物イオンを用いないことを利用し、電子部品の製造にも利用可能であることを示す。ジアシルヒドラジン構造を持つ塗料として、イソシアナートとの反応で合成されるアシルセミカルバジド型のポリマーについて、その酸化分解性を明らかにする。 2-チオエチルエステル構造を有する様々なポリエステルについて、酸化分解性を明らかにする。現在は過酸を用いる酸化と塩基を用いる分解を2段階で行なっているが、塩基性条件下でもスルフィドをスルホンまで酸化できるような酸化触媒を開発し、酸化と分解を同時に行なえるようにする。また、チオアセタール構造をもつ同様のポリエステルがより穏やかな塩基によっても酸化分解できることを明らかにする。2-チオエチルエステル構造を有するポリアクリル酸やポリメタクリル酸エステルについて、スルホンへの酸化に伴う物性の変化、酸化分解性を明らかにする。 2-チオエチルエステル構造を持つ二官能性モノマーと連鎖移動剤を組み合わせることで、2-チオエチルエステル構造で内部連結された酸化分解性ビニルポリマーを得て、ジアシルヒドラジン構造で内部連結された酸化分解性ビニルポリマーとの違いを明らかにする。グリシジルスルフィド構造を持つ多官能性エポキシ樹脂を合成し、酸化分解性エポキシ樹脂としての応用を検討する。
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