これまで,無肥料での長期作物生産は不可能と信じられてきたが,長期無肥料でも通常の肥料栽培に劣らない収量を達成している水田農家が存在する。これまでの研究で無肥料水田では土壌の窒素固定細菌による無機窒素の供給がイネの高収量に関係していることがわかってきた。次世代シークエンス技術を用いた水田土壌の窒素固定遺伝子(nifH)のメタゲノム解析から,窒素固定は土壌での有機物分解の最終段階にあたる嫌気呼吸を行う細菌群により主に行われて入ることが分かってきた。具体的には,これに該当するグループとして鉄還元菌,硫酸還元菌,メタン分解菌があげられる。本年は,水田土壌での窒素固定細菌群の空間的・時間的変動を明らかにする目的で,青森県(弘前市),秋田県(秋田市),長野県(伊那市),石川県(羽咋市)の無肥料水田での窒素固定細菌群集を比較した。また,秋田市水田では田植えから出穂までの窒素固定細菌群集の季節変動を調査した。 結果:(1)4県にまたがる水田土壌では,窒素固定遺伝子を持つ細菌として,鉄還元菌,硫酸還元菌,メタン分解菌が同定された。一方,窒素固定能力を持つことが知られているシアノバクテリアやClostridiumなどは確認されなかった。このことから,水田土壌での窒素固定は一連の有機物分解の最終段階にあたる嫌気呼吸を行う細菌と嫌気呼吸の最終産物であるメタンをエネルギー源とする細菌が主要な役割を持つことが確認された。この3グループの割合は地域間で変動はあるものの,概ねメタン分解菌>鉄還元菌>硫酸還元菌の順となっており,嫌気条件で生成されるメタンが窒素固定のエネルギー源として最も用いられていることが分かった。 (2)秋田市の2水田の季節間の窒素固定細菌群集は大きく変動せずに,出穂期まで維持されていた。
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