研究課題/領域番号 |
20H04393
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
森 裕之 立命館大学, 政策科学部, 教授 (40253330)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アスベスト / リスク・マネジメント / 公共政策 / ストック災害 / 補償基金制度 / 建設需要 |
研究実績の概要 |
本研究はストック災害の解決困難性を踏まえた上で、その典型であるアスベスト災害を対象として、被害予防を徹底するための公共政策の学術的・実践的探究を行うことが目的である。ストック災害では、その原因物質の生産・消費が盛んに行われた後に被害が顕在化するため、政策対応も事後的となる傾向をもつ。そのため、日本では過去の生産・消費活動によって蓄積されたアスベストによる新たな被害発生のリスクに直面している。そこで本研究では、アスベスト災害の予防徹底のためのリスク・マネジメントの追求を軸とした調査研究と実践的取組を通じて、ストック災害の政策論の確立に取り組む。 本年度の研究成果の第1として、予防対策と並行して進められるべき過去のアスベスト災害の被害補償・救済のための、日本における被害の補償基金制度の検討を行った。2008 年から全国で行われてきた建設アスベスト訴訟の判決が積み重ねられてくる中で、被告とな った国と建材メーカーの法的責任が確定してきており、これによって、アスベスト被害をうけた建設労働者らに対する慰謝料が補償される方向にある。そのための補償基金を創設する上で、責任関係を元に公的資金の確保をいかに適切に設計するかは重要な課題であり、公害健康被害補償制度や石綿健康被害救済制度などの先行制度から検討を行ったものである。 研究成果の第2として、日本における過去のアスベスト消費動向や健康被害について、経済成長やその時代における政治・社会状況を踏まえつつ、統計データを元に整理・検討を行った。具体的には1970年頃までの高度経済成長期はアスベスト消費と経済成長の相関性はシンプルに高いが、それ以降のアスベスト使用禁止に至るまでは建設需要との相関性が明確に見られ、現状の予防対策においてどこに重点を置くべきか、その実証的結果が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理論や歴史のサーベイ的な研究、行政資料や現行のアスベスト災害に関する情報収集、礎的な資料文献の確保などの研究遂行の上での環境整備を順調に進めている一方で、昨年度当初より新型コロナウイルス問題による影響が予期せぬ形で長期継続してしまっている関係から、国内外の訪問・ヒアリング調査・研究交流・国際会議等の長距離移動や対面形式での行動が伴う活動については滞っている状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に則り、現状における適正なアスベスト管理・処理の徹底に向けての政策研究として、政府・自治体の対策動向やリスクコミュニケーションによる当事者意識の醸成の考察、基礎的研究調査として過去のアスベスト使用実態や健康被害の発生状況等の歴史研究を並行的に遂行していく。昨年度に引き続き、新型コロナウイルスの問題の影響で、現地訪問調査・ヒアリング・研究交流等が実施しにくい状況にあるが、遠隔ツールの活用を模索しつつ推進していく。
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