研究課題/領域番号 |
20H04402
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
玉田 芳史 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (90197567)
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研究分担者 |
相沢 伸広 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (10432080)
上田 知亮 東洋大学, 法学部, 准教授 (20402943)
河原 祐馬 岡山大学, 社会文化科学研究科, 教授 (50234109)
木村 幹 神戸大学, 国際協力研究科, 教授 (50253290)
鈴木 絢女 同志社大学, 法学部, 教授 (60610227)
滝田 豪 京都産業大学, 法学部, 教授 (80368406)
中西 嘉宏 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 准教授 (80452366)
日下 渉 名古屋大学, 国際開発研究科, 准教授 (80536590)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | SDGs / 権威主義体制 / 反政府運動 |
研究実績の概要 |
本研究は、民主化とSDGsの関係の解明を目的とする。SDGsの広範な開発目標群には政治の民主化が含まれていない。国際社会がSDGsを喧伝すればするほど、非民主的な政権であっても、SDGsへの献身のアピールに国際舞台で成功すれば、国際社会から賛辞を送られ、国内での自己正当化に利用できる。SDGsは開発のみならず、権威主義体制をも持続可能にするのではないか。本研究はこれを問いとして、アジア諸国の具体例に基づいて、SDGsのそうした副作用を検討し、SDGsが健全に推進されることを目指す。 本年度は次の3点について調査研究に着手した。第1に、SDGsの17の目標と169のターゲットについて理解を深める。第2に、研究対象とする国々の政治体制について確認する。各国の権威主義体制の度合いや特色を、他国との比較を通じて考察する。第3に、SDGsが国連で採択された2015年以後各国政府がSDGsに関連してどのような取り組みをしてきたのかを調べる。 しかし研究に着手しようとした矢先にCOVID-19(新型コロナウイルス感染症)の世界的な流行が始まった。その結果、調査対象国への渡航も日本での対面の研究会開催も不可能になった。そこで、健康がSDGsの目標3であることに鑑みて、COVID-19に重点を置いた研究を進めることにした。研究の焦点は、権威主義政権がどのようなCOVID-19対策を講じたのかということであった。 研究によって、次のことが明らかになった。感染拡大阻止に成功すれば、政権の正当性が高まる。他方、感染拡大阻止を大義名分として反政府勢力を弾圧することも可能である。すなわち、COVID-19対策は、COVID-19の封じ込めにも反政府勢力の封じ込めにも使える。国民の側からすれば、COVID-19対策は毒にも薬にもなるということである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究に着手しようとした矢先にCOVID-19の世界的な流行が始まったため、調査対象国への渡航も日本での対面での研究会開催も不可能になった。そこで、予定を見直して、COVID-19と権威主義体制の関係に重点をおいて調べることにした。 中国のゼロ・コロナ政策に典型的に示されるように、COVID-19対策は、反政府運動の封じ込めにも利用されることが明らかになった。この点が鮮明なのはタイであった。タイでは2020年2月に入ると感染者が増加し始めた。政権は3月に非常事態を宣言し、政治集会を禁止した。これが重要なのは、2020年2月に国会の第三党が解党処分を受け、それに反発する大学生を中心とする若者が、地理的な広がりでタイ史上空前の規模となる抗議集会を全国各地で始めたからである。既存政党が尻込みしてきた君主制や軍隊が享受する諸々の特権の監査に、同党が積極的に取り組もうとしたという事情が解党の背景にあった。 軍事政権の厳しいCOVID-19対策は、一方では学校の閉鎖措置と相まって若者の抗議集会を封じ込め、他方では2020年5月以後に感染者を激減させた。感染状況改善を受けて、7月以後若者は政治運動を再開した。要求内容は解党への抗議から、政治改革さらに君主制改革へと変化していった。参加者も中高生や一般市民へと拡大していった。そうした反政府集会を封じ込めるために、政権は感染者が減っても非常事態宣言を解除せず、参加者を次々と摘発した。若者が、それまでのタブーを破って君主制の改革を公言するようになると、政権は重罰を伴う不敬罪を2020年11月以後適用するようになった。多くの国民は、軍事政権のみならず、一連の措置の黒幕と思われる君主制、それに荷担する司法制度への反発を強めることになった。タイの隣国ミャンマーでは、2021年2月に軍隊がクーデタを決行して、権威主義体制の隊列に加わった。
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今後の研究の推進方策 |
COVID-19対策以外のSDGs推進にも目配りしつつ、引き続きCOVID-19対策を主たる調査対象とする。政権にとっても国民にとっても、COVID-19は最大の関心事であると判断されるからである。 平成2年度のCOVID-19対策は封じ込め、すなわち他者との接触を減らすことに主眼があり、デモや集会を容認しなかった。タイの場合には、こうした封じ込め策が功を奏して、感染拡大が阻止された。 しかし、COVID-19の感染状況は増減の波があり、急ピッチで開発が進められる新型コロナワクチンの調達や接種の影響を受ける。平成3年度以後は、行動の自由の制限のほかに、新型コロナワクチンの調達や接種についても調査を進めることにしたい。アジア地域で主として接種されたワクチンは、中国製のシノヴァックとシノファームのほか、イギリスのアストラゼネカ、アメリカのファイザーとモデルナであった。これらのワクチンには価格や効能、さらに調達の難易度に差があった。ワクチンの接種は、いつでも、どれでもよいというわけではなく、国民が希望する種類のワクチンを必要な分量だけ調達することができるのかどうか、それが政権の正当性に影響を与える。
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