研究課題/領域番号 |
20H04419
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
増田 一夫 東京大学, 大学院総合文化研究科, 名誉教授 (70209435)
|
研究分担者 |
原 和之 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00293118)
園部 裕子 香川大学, 経済学部, 教授 (20452667)
小門 穂 神戸薬科大学, 薬学部, 准教授 (20706650)
長谷川 まゆ帆 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60192697)
尾玉 剛士 獨協大学, 外国語学部, 准教授 (60751873)
森山 工 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (70264926)
佐藤 朋子 金沢大学, 外国語教育系, 准教授 (70613876)
伊達 聖伸 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90550004)
藤岡 俊博 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (90704867)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | フランス / 結婚 / カップル / 同性婚 / 生殖補助医療 / 親子関係 / ジェンダー平等 |
研究実績の概要 |
初年度である2020年度は、同性婚合法化にいたる過程、および合法化を受けての生命倫理法改正を研究の二大焦点と位置づけて、研究をスタートさせた。 年度前半は、コロナ禍によって研究条件は深刻な制約を受けた。キャンパスへの入構および図書館の利用が制限され、対面による海外研究者との意見交換が実質的に不可能となった。教育の場での対応にも追われた。メンバー同士では対面方式を断念し、遠隔会議システムを用いて夏までは非公式の打ち合わせをおこない、9月初旬に正式のスタートアップ研究会を開催した。その後、11月、2月、3月、さらに2021年度へ課題を繰り越すことが認められたため、翌年5月、8月(2回)と全体研究会を重ねた。 初年度では、法社会学、家族法の専門家であり、同性婚合法化において主導的役割を果たしたイレーヌ・テリーの著作Mariage et filiation pour tous. Une metamorphose inachevee (Paris, Seuil, 2016)(邦訳『フランスの同性婚と親子関係』(明石書房、2019年))を出発点とした。その研究書の多角的な読解および他の研究との接続を通じて、特に20世紀中葉以降の結婚、セクシュアリティ、家族、生殖をめぐる議論や実践の変遷をたどり、各メンバーの専門分野からの視点で意見交換をおこなった。また、同性婚合法化に不可欠であるジェンダー間の平等をテーマに、ラファエル・リオジエ教授(エクス=アン=プロヴァンス政治学院教授)を囲んで遠隔方式のラウンドテーブルを開催し(2021年7月)、2021年度8月末までに初年度の実施計画をほぼ遂行した。 それ以降の期間では、野辺陽子氏(日本女子大学准教授)を招いて日仏の家族観における血縁や「自然」の考え方、ベロー教授(社会科学高等研究院)との国際研究集会で日仏のジェンダー論争と生殖医療などを取り上げ、問題を深く共有することに努めた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究の進捗をいかに評価するかは容易ではない。海外における資料調査・収集、外国研究者との意見交換は困難となり、研究方法の変更を強いられた。他方で、コロナ禍がもたらした制約に対する種々の対応は次第に整い、年度の研究課題であった科研メンバー間での課題の共有、深化、および多角的な把握は進んだ。それによって、2020年度の実施計画に盛り込んだ諸点は、海外派遣、招聘、対面での意見交換はできなかったものの、達成されたと認識している。 また、2020年度はコロナ禍による混乱のため研究期間の延長、予算の繰越しを申請し、受理された。延長期間のなかで、18世紀以降の長いスパンにおける結婚、漸次的に進むジェンダーと子どもの平等、そしてとりわけ20世紀後半以降のカップルや家族めぐる変化、避妊と人工中絶から始まる生殖と医療倫理の変化について考察をおこなった。過去70年間で、婚姻率の低下、カップルの多様化、婚外子の増加が見られ、婚姻率のみではなく結婚規範そのものが相対化される「脱結婚」現象が起こったとされる。そこにセクシュアリティの多様化を容認する流れが加わり、1999年の市民連帯協約(PACS)を経て、同性婚の合法化(2013年)に至っている。本研究では、それらの経緯と実践面における変化のみならず、それらを語る言説の推移について掘り下げ、メンバー同士で共有した。 2021年4月以降は海外の研究者との意見交換を本格的に再開し、7月には日仏の研究者が参加する遠隔方式のラウンドテーブルと開くなど、夏までに進捗の遅れをほぼ取り戻すことができた。 以上のような理由から、研究はおおむね順調に進んでいると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
本来この欄は第2年次の研究に関する推進方策の展望に充てられている。しかし、実際にはすでに2年次の課題への取り組みがおこなわれているため、2021年秋以降におこなったことも一部含めて記すことにする。 初年次の研究を受けて、第2年次では引き続き18世紀後半以降、とりわけ20世紀後半以降の推移をより明確に把握することに努める。それと同時により積極的に比較論的視点を盛り込むことにする。それは、カップル、親子関係、家族、そして同性婚をめぐる言説が、それぞれのネーションの成り立ち、ならびにその支配的ナラティヴと一定の相関関係を有しているためである。その観点から、日仏の結婚観、家族観、親子観を確認、それらにおける「血縁」の位置づけ、「自然」という価値のあり方を明確にしてゆく。それにより、里親や養子縁組のあり方、親が別れた後の共同親権の有無、行政による支援のあり方における発想の違いが浮かび上がるはずである。また、日仏両国でおこった「ジェンダー論争」の背景を探り、それぞれの主役であった日本の保守層とフランスのカトリック信者の親近性と相違性を確認する。アメリカという軸を導入し、アメリカにおける「家族の価値」と多形化するフランスの家族を比較する。 第2年度は、引き続き遠隔方式を積極的に用い、研究組織全体が参加する4回程度の研究会を開催する。また、フランスではコロナ禍以前の規模で対面方式の研究集会が再開されている。海外の研究者には対面方式を重視する傾向が強く、時間をかけて話し合うことで研究会の枠内では見えてこない知見を獲得しようとする姿勢がうかがわれる。本課題でもメンバーを積極的に派遣すると同時に海外からも研究者を招聘し、資料調査や意見交換、研究発表に努めたい。
|