研究課題/領域番号 |
20H04420
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
上田 元 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (10241514)
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研究分担者 |
大月 義徳 東北大学, 理学研究科, 助教 (00272013)
池野 旬 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 名誉教授 (40293930)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 地域経済統合 / 小農 / 資源 / ケニア / タンザニア |
研究実績の概要 |
本年度計画の大部分をコロナ禍によりR5年度に繰越実施し、R5年度予定の調査と有機的に同時進行させた。 課題1:東アフリカ共同体(EAC)林業政策の分析 (A)EAC本部での調査に替え、日本で入手可能なメディア報道等の検索・収集・検討を継続した。(B)タンザニア・ンジョンベ州マケテ県において、林業主体の地域経済の多様化を図る地方政策(果実生産奨励)と、主食作物・小麦をめぐる諸政策の実態(国内小麦供給不足に対処するためのEAC対外共通関税の一時軽減という国策と、改良種小麦種子の無償配給という県政)について情報収集した。 課題2:小農対応戦略の比較地域研究 (A、B、C)マケテ県小農世帯について生計調査を行い、男性の不在村・移動労働が一般化するなか在村女性中心の生計戦略に対する国政、とくに県政(改良種小麦種子の無償配給)の影響を、「地域の媒介性」の例として検討した。散居する小農女性が児童同伴で村落診療所を訪れた際に、児童の栄養不良状態と女性のジェンダー化した地位との関連を含めて、世帯の社会経済的特性について調査した。 課題3:流通事例研究 (A、B、C)コロナ禍後の調査再開によって判明した現地情勢の変化を踏まえ、タンザニア・チーク産地(ムヘザ)から見た対ケニア流通の調査に替えて、ケニア側の業者からタンザニア産材の輸入・流通実態を聞き取った。またタンザニア産材の代替品の一つとしてケニアのインド洋沿岸で多用されているマングローブ材について、ケニア産地(クワレ、マリンディ、ラム)および流通の現況把握を行った。さらにタンザニア・マケテ県等で奨励されている果樹生産への部分的転換とケニアへの果実輸出に関連して、ケニア中央部の果樹主産地(マクエニ)においてマンゴー・アボカド生産者組合および交易センターにおける果実流通実態、輸入されるタンザニア産との市場競合等の実態について聞き取りを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本(R4)年度後半、R3年度繰越分によりコロナ禍以降初めてのタンザニア渡航を実現したものの、ケニア渡航は果たせず代行調査の実施に留まった。その後、本年度の調査研究についても繰越(翌債)による継続実施とし、これを最終年度であるR5年度の計画と同時並行で行ったことから、課題1Aの東アフリカ共同体(EAC)本部ほかの訪問・情報収集、および課題2Dの調査対象村造林地の地形的特徴・その変化、そして流通事例研究の課題3D、3F~3Hは実施の見込みが立たなくなった。以上を除けば、本(R5)年度はケニア渡航を実現し、ケニア側から見たタンザニア産材の流通とケニア沿岸部マングローブ材の利用と木材流通の実態把握、タンザニア南部の林業地域における代替生計手段として導入が進みつつある果樹生産とケニアへの果実輸出を踏まえ、ケニアにおける果樹生産とタンザニア産品との市場競合の実態について現況把握を行うことができた。また、タンザニア南部林業地域において小農世帯調査を進めるとともに、その生計に影響を与える政府・県の農政の例として改良種小麦種子の無償配給政策に注目し、これに関する質問票調査の準備を進めることができた。しかし、最終年度(R5)の全体を通して現地調査を一層進める必要があり、研究成果を論文等に取りまとめる時間的余裕を確保することが難しい状況にある。
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今後の研究の推進方策 |
課題1:東アフリカ共同体(EAC)林業政策の分析 (B)タンザニア・ンジョンベ州マケテ県において小農林家の生計そして地域林業経済に影響を与える可能性のある小麦をめぐる諸政策、とくに改良種種子の無償配給政策の概要について引き続き情報をアップデートするとともに、配給の地理的分布と配給に至るまでの政策実施における行政当局をはじめとする諸主体間の関係について把握する。 課題2:小農対応戦略の比較地域研究 (A、B)マケテ県において林業に従事する小農世帯の生計・ジェンダー調査を継続するとともに、とくにロシアによるウクライナ侵攻ほかの理由により国内小麦流通が逼迫するなか政府・県が実施しつつある改良種小麦種子の無償配給政策を国際・国家レベルと小農レベルを関連させる「地域の媒介性」の例と位置づけ、同県において林業を中心としてきた人々が改良種小麦を導入するか否かを分ける原因条件を明らかにするための世帯調査および質的比較分析を行い、導入にみられる因果の複雑性・多様性を把握、分類する。(C)タンザニア・タンガ州では小農によるチーク造林・流通について引き続き探索的な調査を行うとともに、同州インド洋沿岸部に分布するマングローブ林の実態、マングローブ材の対ケニア輸出の有無、および都市化や内陸石油資源開発が与える影響、地域住民による環境保全と伐採以外の代替生計手段の可能性について情報収集する。 課題3:流通事例研究 (A、B、C) タンザニアからケニアへの果実輸出の事例に加えて、タンザニア南部マケテ県の農林産物をめぐりどのような(越境)広域流通システムが形成されているのか、探索的な調査により把握する。タンザニア南部の林産物がタンザニア北部を経由してケニアへと輸出されているルートはすでに確認済みであり、同ルートを用いて輸送される他の農産物から明らかとなる広域システムについて、具体例を把握することを目指す。
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