研究課題/領域番号 |
20H04423
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
速水 洋子 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (60283660)
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研究分担者 |
片岡 樹 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 教授 (10513517)
小林 知 京都大学, 東南アジア地域研究研究所, 教授 (20452287)
高橋 美和 実践女子大学, 人間社会学部, 教授 (40306478)
木曽 恵子 宮城学院女子大学, 付置研究所, 研究員 (80554401)
中村 沙絵 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (80751205)
飯國 有佳子 大東文化大学, 国際関係学部, 准教授 (90462209)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 上座仏教圏 / 高齢者 / ケア / 宗教実践 / ウェルビーイング / 積徳行為 |
研究実績の概要 |
引続き新型コロナウィルスの猛威により、計画通りの現地調査を実施できない間、メンバーはエイジングと宗教に関する文献、タイや東南アジアの高齢者ケアに関する文献、高齢者と宗教、宗教とケア等に関わる民族誌的資料、ケア論や倫理研究を収集・読解し、繰越分を利用して2022年度から一部のメンバーは調査を開始した。 7月に科研「地域に根ざした介護予防プログラムの構築―日タイ比較研究から実践的介入への挑戦」と合同で「タイにおけるケアと仏教実践」ワークショップを実施した。終末期や高齢期に関する考え方や、寺院や仏教実践の役割などを検討したが、2021年度中にここでの検討事項を実地調査で検証することはできなかった。 個々のメンバーでは、飯國のミャンマー調査はコロナ禍に加え2021年2月に発生したクーデターにより一時途絶えた現地との連絡を復旧し、SNSを介して政治との関係を中心にサンガの変化や知り合い高齢者の動向把握を行った。木曽、片岡、小林、高橋、中村、速水は、文献研究を進めつつ、過去の調査データに考察を加え、また可能な場合は現地とオンラインで情報収集を行い、口頭発表等を進めた。高橋は、2022年度早々から徐々に渡航が可能になったこともありサバティカルを利用して一年間カンボジアで調査を実施し、前半においては2021年度繰越分を現地調査実施に充てた。コロナ禍を経験した現地の状況も踏まえ、カンボジア仏教の理解を進めるため、年中行事・布施行事の観察・参与観察、華人系クメール人の行事(清明節)や年忌供養の参与観察、得度式の観察、僧侶への聞き取り(出家動機・今後の還俗予定等)などを進め、農村高齢者の生活、寺院委員(俗人)や寺院が一部関わっている貧困家庭支援のしくみについての予備的な聞き取りを実施した。2022年7月には前年度繰越分にて、速水がカンボジアで高橋を訪ね、共に高齢女性の起居する尼僧院を訪れた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度は引続きコロナ禍の猛威が続き、当初予算の大半を渡航費・調査費に充てる予定としていた。このため予算を繰越し、2022年度前半から一部渡航が可能となったメンバーによる調査が始まったが、本格的には2022年度後半に再開した。調査渡航が可能になった時点で調査が開始できるよう、この間は文献収集やオンラインでできる形の情報収集・インタビューなどが中心であった。また、過去に収集した情報から、当該事項に関する情報が豊富にあるメンバーについては、その解析から執筆や口頭発表へと進んでいる。フィールド調査が可能になった時点で、調査対象とすべき寺院や高齢者施設の特定や調査内容については準備ができている。 ミャンマーでは、高齢化の進展状況について基礎的情報を踏まえたうえで、高齢者の日常的実践の解明に向けて個別のライフヒストリー収集が必要であるが、コロナに加えて現在の政治状況では、現地調査はほぼ不可能と思われ、オンラインでの調査の方途を模索している。タイの中国系善堂における高齢者の宗教実践についての調査、タイ東北部農村の高齢女性の日常的宗教実践についての調査、カンボジアの高齢者ケアをめぐり、利他的な助け合いの理念と具体的な活動がどのように醸成され語られているのか、社会やコミュニティの変化を踏まえて個人のライフヒストリーのなかで老いと救いがどの様に語られるか、カンボジアにおける都市在住高齢者の宗教実践の全体像を把握するための調査、世帯・家族親族の積徳行為における高齢者の役割、寄付金集めネットワークの実態などを調査、スリランカにおける老いて朽ちゆく身体の受容を解く仏教的な教えや実践について理解のための聞取りなどの調査が、立ち遅れており、今後の調査に期待する。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度分繰越により2022年度後半にはミャンマー以外は徐々に入国が容易になりつつある。2022年に可能なところから調査を開始し、2022年度末には、現時点の各メンバーの進展状況を確認し、今後に向けた軌道修正を行う。本来であればプロジェクト後半の始まる3年目に国際ワークショップを実施し、問題を整理したうえで最終成果に向けた準備をする予定であったが、3年目にようやく調査が始まるということで、3年目から4年目に向けて調査を進め、ワークショップは中途段階になるが4年目に実施する。そして4年間が終了してから、成果をまとまった学会発表および成果物としてとりまとめる。 その際にいくつかのテーマが考えられる。第一に、文献調査を通じて明らかになったこととして、宗教実践以前にどの様に在宅で高齢者ケアがなされているか、基本的な生活実態についても情報が少ないことがあげられる。本科研メンバーはそれぞれの調査地でこうした実態を把握することができる。第二に、そのうえで高齢者が居住世帯の内外でどの様に宗教実践に参加しているか、そのことを生涯の宗教実践のなかでどの様に位置づけているかを検討する。第三に、そうした高齢者の宗教実践を可能にする場がどの様に用意されているか、寺院や宗教施設、宗教組織がどの様に高齢化に対応し、高齢者ケアに関わっているかを明らかにする。また、それがどの様な宗教理念に支えられているか、あるいは宗教理念の形成に関与しているか。そして第四に、そのような宗教施設・宗教組織の動向の背景にある各国の高齢者政策と宗教の理念を明らかにする。
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