研究課題/領域番号 |
20H04426
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研究機関 | 東京外国語大学 |
研究代表者 |
東城 文柄 東京外国語大学, 世界言語社会教育センター, 准教授 (90508392)
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研究分担者 |
星 友矩 長崎大学, 熱帯医学研究所, 助教 (10790503)
内藤 大輔 京都大学, 農学研究科, 助教 (30616016)
門司 和彦 長崎大学, 熱帯医学・グローバルヘルス研究科, 教授 (80166321)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | サルマラリア / 地理空間分析 / 時系列分析 / 媒介蚊(アノフェレス) / 生態 / 感染リスク行動 |
研究実績の概要 |
これまでの報告では、調査地域におけるサルマラリア感染のリスク人口は、第一に狩猟採集民や焼畑民といった天然林地帯を生業の場とする人々、第二に天然林を大規模に伐採して造成されたプランテーション(ゴムやオイルパーム)における野外労働従事者であるとされてきた。しかしながら、サルマラリア感染リスク人口の実態や、サルからヒトへの感染が生じる自然環境に関しては未だ不明な点が多い。そこで本研究では、計6,245人分のマラリア・サーベイランスデータ(2017-19)を用いて、調査地域におけるサルマラリアの流行の地理空間及び時系列分析を行った。
地球観測衛星データを用いた土地被覆分類結果にもとづいて、Pk感染地点周辺の自然環境(土地被覆・土地利用状況)を統計学的に解析した。結果、流行発生地の自然環境は大まかに6つの類型(Forest Type1(F1), Forest Type2(F2), Shrub(S), Urban(U), Cropland(C), Waterside(W))に分類されることが明らかになった。環境類型毎に症例数を集計したところ、31.2%(F1)、 17.1%(F2), 20.6%(S)、14.9%(U)、9.4%(C)そして5.7%(W)であり、これまで指摘されてきた自然環境(森林地帯型、プランテーション地帯型)が症例全体の68.9%(F1,F2,S)を占めていた。一方でこれまで注目されていなかった都市型(C)や田園型(C, W)の流行立地が30.0%も存在することが明らかになった。
他にはフィールド調査再開に備えて、国内(長崎)で独自開発した補虫(蚊)機や二重蚊帳の実証実験を行った。これによって、COVID-19パンデミックによる渡航制約解除後の調査再開時の、蚊の生態調査効率を改善することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度はCOVID-19の流行により、当初予定していた海外出張調査が全く実施不能になった。そのため研究のターゲットを患者発生(Pk感染)地点データの入手と、その地球観測衛星データを用いた地理情報システム学的及び空間疫学的解析に注力した。具体的には、2021年中ごろからCPを通して現地政府(保健省)とのコンタクトを開始し、2021年末頃には計6,245人分のマラリア・サーベイランスデータ(2017-19)を入手することに成功した。データには感染地点(患者が野外労働を主に行っていた地点)に関する正確な緯度経度と発症日の情報が含まれており、これらを用いて調査地域におけるサルマラリアの流行の地理空間及び時系列分析が可能となった。
このデータを用いた解析により、これまでよくわかっていなかったサルマラリア流行地の地理的に詳細な分布と、流行地が持つ自然環境条件などの詳細を明らかにすることが出来た。結果、これまで以上に調査地・調査時期・観察対象とする環境や住民のリスク行動などに関する調査計画の精度が高まり、近日(2022年6月以降)再開予定であるフィールドワークでは、これまでのフィールド研究の遅れを取り戻すような効率が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
ここまでの研究結果から、Pk感染地点周辺の自然環境単位のうち森林地帯型(F1)は州全体に満遍なく散らばって小規模に発生しているのに対して、プランテーション型(F2, S)はKudat, Pitas, Ranau, Keningau, Tenomなどの限られた県で大きなクラスターが発生しているという差を確認できた。他にも都市型(C)の流行分布はKota Marudu郊外およびRanauとKeningau県都に集積し、田園型(C, W)の分布も明瞭な流行地帯を形成していた。以上の結果を踏まえて、6つ自然環境類型がバランスよく含まれているKeningau県に注目して、症例発生日の季節性(周期性)を6つの類型で分けて観察した。結果、森林型およびプランテーション型(F1, F2, S)では6月下旬から9月上旬と12月に大きなピークを持つ二峰性を示したが、田園型・水辺(W)では2月、4-5月、7-8月など年の前半期、田園型・耕地(C)では9-10月, 12月など年の後半期にピークの時期が偏った。都市型(U)の発生ピークはプランテーション型(S)と田園型・耕地(C)が混ざったようになっていて、都市部に隣接するこれらの土地被覆由来の蚊の関与が伺われた。
これらの分析結果からは、調査地域においては比較的複数の生息環境が異なる媒介蚊の種類がサルマラリアの拡大に寄与していることが予測できた。今後の研究推進方策(媒介蚊に関する生態学的な研究の蓄積)を考えるに際して、上記の発見に立脚してそれぞれの生態系ごとに異なる調査計画を策定する予定であり、すでに現地渡航計画と現地でのフィールドワーク実施内容に関するCPとの協議に着手している。
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