研究課題/領域番号 |
20H04453
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
木村 真一 大阪大学, 生命機能研究科, 教授 (10252800)
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研究分担者 |
渡邊 浩 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (50625316)
大坪 嘉之 大阪大学, 生命機能研究科, 助教 (70735589)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | スピン偏極電子エネルギー損失分光 / 強相関電子系 / スピン偏極電子源 / スピン偏極散乱 / スピントロニクス / スピン流 |
研究実績の概要 |
本研究では、次世代のスピントロニクスでキーとなるスピン偏極電流(スピン流)の性質、つまりどの原子軌道に由来しているものか、どの方向のスピンをもつのか、スピンキャリア密度・緩和時間を決定する方法論として、スピン分解共鳴電子エネルギー損失分光法(Spin-Resolved resonant Electron Energy-Loss Spectroscopy: SR-rEELS)を開発することが目標である。 その初年度として、既存の内殻共鳴電子エネルギー損失分光(rEELS)装置に使っているGaAs/GaAsP歪超格子フォトカソードスピン偏極電子源からの電子線を試料に導入し、スピン散乱の実証を行った。具体的には、電子線を磁化させた鉄薄膜に照射し、スピンの方向を違いによる散乱電子強度を観測したところ、キャリアプラズモンおよび価電子プラズモンに数%程度のスピン偏極が観測された。この結果は、本研究で開発しているSP-rEELSが、スピン流の観測に有用であることを示している。 また、電子スピンを任意の方向に向けるためのスピンローテーターの設計を行い、試作機を現在制作中である。さらに、SR-rEELSは角度積分測定のみが可能であるが、運動量分散の観測のために角度分解測定が可能な電子レンズを最新式のものに交換して既存の電子分析機に導入した。この装置は現在立ち上げ調整中であり、次年度に成果が得られる見込みである。これを実現することによって、元素選択的にスピン分解したEELSスペクトル観測だけではなく、角度分解による運動量分解も実現したスピン・角度分解共鳴電子エネルギー損失分光法(Spin- and Angle-Resolved resonant Electron Energy-Loss Spectroscopy: SAR-rEELS)への展開につながる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では、スピンローテーターの設計・テストと、電子分析器の整備を行うことが初年度に当たる2020年度の目標であった。これらの当初の目標については、スピンローテーターは設計・製作がすすんでおり、また、既存の電子分析器の電子レンズの交換作業も計画通りに進んでいる。それらと並行して、2021年度に計画していた鉄薄膜を用いたSR-rEELSの検証を前倒しで進め、スピン偏極測定が可能であることを示すことができた。つまり、次年度の計画を前倒しで進めた点が、「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度にSR-rEELSの検証ができたため、次のステップとしては、①電子スピンの方向を任意の方向に向けることが可能なスピンローテーターを設置し、電子スピンを任意の方向に回しながらのSR-rEELS測定を可能にする、②SP-rEELSを角度分解可能にし、電子スピン及び運動量を分解した元素選択的EELS法(SAR-rEELS)を構築することである。 2021年度当初に、スピンローテーターの制作が進んでおり、年度前半から磁場分布および電場分布の測定および電子線を通した軌道のチェックを経たのちに、実際のスピン偏極電子源からの電子軌道をテストする。その結果が合格であった場合、実際の装置に組み込み、スピンローテーターとして機能させ、SP-rEELSの性能を向上させる。②は、昨年度から整備してきた新規電子分析器を7月までに立ち上げる計画で進んでいる。既存の単色紫外光源でのテストを経たのち、スピン偏極電子源との接続を行い、角度分解EELSの実証実験を開始する。 これらの検証が終了したのち、スピン偏極電流が期待される一次元ラッシュバ系や強相関電子系のSP-rEELS測定に移行する。
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