研究課題
本研究では、次世代のスピントロニクスでキーとなるスピン偏極電流(スピン流)の性質、つまりどの原子軌道に由来しているものか、どの方向のスピンをもつのか、スピンキャリア密度・緩和時間を決定する方法論として、スピン分解共鳴電子エネルギー損失分光法(Spin-Resolved resonant Electron Energy-Loss Spectroscopy: SR-rEELS)を開発することが目標である。初年度に、キャリアプラズモンのスピン散乱の観測に成功しており、本研究の最低限の目標は達成していた。2年度目としては、さらなる発展として角度分解観測を目指して高い角度分解電子分析器を導入することを目的に、その整備を行った。具体的には、MBScientific A-1電子分析器を導入し、高い角度分解能で2軸の角度を分布を一度に測定できる仕様に改造した。さらに、試料の角度及び向きを入射電子線及び電子分析器に対して正確に合わせることができるように6軸マニピュレータを独自に開発し導入した。これらは現在調整中であり、これを用いた成果は、最終年度に持ち越しとなった。電子スピンを任意の方向に向けるためのスピンローテーターは、試作が終了し、問題点を洗い出して、本機の設計を行った。さらに、現在のエネルギー分解能(約100meV @ 1 keV)より高い分解能(50 meV以下 @ 1 keV)での観測を可能にしながら、電子スピンを電子進行方向に直交する方向に向けるための電子光学系(90°ディフレクター)の設計を行った。この90°ディフレクターを導入することで、マグノン分散などのより低エネルギー励起の観測が可能になることが期待できる。
1: 当初の計画以上に進展している
当初、2年度に計画していたスピン分解共鳴電子エネルギー損失分光法の実証は、初年度の終了し、本研究で開発した装置に関する論文は発表した。2年度目が終了した現時点では、本研究の発展として、角度分解測定およびエネルギー分解能向上のための開発研究をすすめており、本研究の目標以上の内容に移っている。つまり、本研究を超えて次に想定される内容まで進めた点が、「当初の計画以上に進展している」と評価できる。
現在推めている①角度分解測定、②スピン分解測定、③高エネルギー分解能化 を推し進め、マグノンなどの低いエネルギーの集団励起の観測を可能にする。これらの開発研究と並行して、スピン偏極電流が期待される一次元ラッシュバ系や強相関電子系のSR-rEELS測定に移行する。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (2件) 雑誌論文 (4件) (うち国際共著 3件、 査読あり 4件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 2件、 招待講演 2件) 備考 (1件)
Review of Scientific Instruments
巻: 92 ページ: 093103~093103
10.1063/5.0055435
Physical Review B
巻: 104 ページ: 245116~245116
10.1103/PhysRevB.104.245116
Results in Physics
巻: 27 ページ: 104468~104468
10.1016/j.rinp.2021.104468
Electronic Structure
巻: 3 ページ: 024007~024007
10.1088/2516-1075/abffe2
http://www.kimura-lab.com/index.html