研究課題/領域番号 |
20H04458
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
中尾 裕則 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 物質構造科学研究所, 准教授 (70321536)
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研究分担者 |
山崎 裕一 国立研究開発法人物質・材料研究機構, 統合型材料開発・情報基盤部門, 主幹研究員 (70571610)
水牧 仁一朗 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 分光推進室, 主幹研究員 (60360830)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | コヒーレント回折イメージング / 共鳴X線散乱 / ホログラフィ / マルチスケール軟X線回折顕微鏡 |
研究実績の概要 |
我々が開発・研究してきた軟X線を用いたコヒーレント回折イメージング(CDI)手法は、メゾスコピックスケールの磁気構造体の実空間イメージングが可能で、原理的に入射X線の波長程度までの高空間分解能での実空間イメージングが実現できる実験手法である。しかしながら観測領域・位置が、コヒーレントX線を切り出すピンホールのサイズ・位置でそれぞれ決まってしまうため、広い空間スケールでの観測が困難であった。そこで本研究では、このCDI手法に新たな視野可変機能を付加し、簡便な広視野観測から、高空間分解能での観測まで連続的に観測可能な「マルチスケール軟X線回折顕微鏡」へと発展させ、メゾスコピック構造が起源となる物性の解明を目指している。 これまでに我々はこの「マルチスケール軟X線回折顕微鏡」を建設し、メゾスコピック構造である磁気テクスチャの実空間観測、視野可変機能の実証実験に成功したところである。さらに、建設してきたマルチスケール軟X線回折顕微鏡の新たな利用展開として、試料からの逆空間(回折)信号とフレネルゾーンプレートからダイレクトビームの干渉を利用したインラインホログラフィによるイメージング手法にも挑戦した。その結果、フォーク型回折格子により生成した軟X線光渦の位相分布の直接的な観測に成功した。さらに、この結果から、本手法が物性の起源として最近注目されている磁気テクスチャの中のトポロジカル欠陥を敏感に捉えられること、その欠陥構造の特徴量であるトポロジカルナンバーを決定できることを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、これまで開発・研究してきたCDI手法に、視野可変機構を付加し、簡便な広視野観測から、高空間分解能での測定まで連続的に観測可能な「マルチスケール軟X線回折顕微鏡」を建設、簡便な広視野観測の例としてメゾスコピック構造である磁気テクスチャの実空間観測、視野可変性の実証実験に成功したところである。一方、高空間分解能での実験に向けては、新たなコヒーレント光の切り出す照明光学系の構築を進めている。 加えて、建設した顕微鏡を用いた新たな利用展開としてインラインホログラフィ手法に挑戦し、フォーク型回折格子により生成した軟X線光渦の強度・位相分布の直接的な観測に成功した。[Y. Ishii et al., Phys. Rev. Applied 14 (2020) 064069] さらにこの結果から、本手法が物性の起源として最近注目されている磁気テクスチャの中のトポロジカル欠陥を敏感に捉えられること、その欠陥構造の特徴量であるトポロジカルナンバーを決定できることを最近発表した。[Y. Ishii et al., Sci. Rep. 12 (2020) 1044] このように、順調に研究は進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに「マルチスケール軟X線回折顕微鏡」による簡便な広視野観測が実現されたが、高空間分解能モードでの実験では測定対象より照射ビームのサイズが大きくなるとイメージングには不向きであることが分かってきた。そこで昨年度に引き続き、新たなコヒーレント光を切り出すための照明光学系を構築し、本顕微鏡による高空間分解能磁気イメージングの実現を目指す。 また利用実験として、強相関電子系の巨大応答現象でしばしば報告される2相共存・相分離状態の観測を2θの高角側でのCDI実験で試みてきた。しかしながら、観測に利用した既存の2軸回折計の測定精度不足により信号を捉えられていないことがわかってきた。そこで新たに、高精度な回折計を導入し、高角側でのCDI実験に再挑戦し始めた。ここで鍵を握っているのが、上述のコヒーレント光の切り出す照明光学系で、これまでの実験上の問題が解決できることが分かってきた。そこで今年度、反射配置でのコヒーレント回折イメージング装置の立ち上げ、新たな照明光学系の試験、これらを組み合わせた磁気イメージングの実現も目指す。
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