研究課題/領域番号 |
20H04466
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研究機関 | 公益財団法人高輝度光科学研究センター |
研究代表者 |
河口 彰吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 主幹研究員 (10749972)
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研究分担者 |
河口 沙織 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 回折・散乱推進室, 研究員 (00773011)
久保田 佳基 大阪府立大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50254371)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 放射光粉末X線回折 / 時間分解計測 / その場構造計測 / ガス雰囲気下 |
研究実績の概要 |
本研究は、複合環境下かつ高エネルギーX線を利用したサブ秒~ミリ秒でのリアルタイム粉末構造計測システムの開発を目的としている。本課題では、高エネルギーX線を利用し広い逆空間をシングルショットで捉えることが可能な計測環境と高速ロータリ―セルの開発により、1秒以下の短時間でもガス雰囲気下時間分解粉末回折の高精度データを取得可能とするとともに、温度不安定性による吸着構造の揺らぎによる効果を検証するための試料環境制御技術を確立する。今年度は、ガス雰囲気下での試料環境を主軸とした複合環境下での粉末回折計測を高速化するために高速回転ロータリガスセルを改良した。その結果、ガス雰囲気下で試料を最速で1000rpmまで連続回転させながら粉末回折計測を行うことが可能となった。この開発により、これまで問題であった高速計測時の回折強度変化約10%程度を1%程度まで著しく低減することに成功した。また、本研究で開発したガス導入式冷凍機を用いることで、極めて精密な温度安定条件下での90Kにおける多孔性配位高分子の酸素吸着構造の変化を観測することに成功した。これらの装置を駆使することで、多孔性金属錯体のアルゴンや二酸化炭素のガス吸着過程において、これまで以上に高精度な粉末回折データの連続計測に成功した。そして、細孔サイズを変化させた多孔性配位高分子に対して二酸化炭素ガスの吸着過程をターゲットとしてサブ秒の時間分解実験を行った。その結果に配位子の大きさの変化により二酸化炭素ガス吸着過程において明瞭な差があることが明らかになってきた。その他、既存のソフトウェアを改良するだけでなく、データ科学を用いたガス吸着過程に対しても進行している。これらの一部の成果は、ハイブリッド形式で開催された国際結晶学会において発表を行った。今後、これまでの装置開発に関する論文をまとめ投稿する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、初年度に開発した装置のブラッシュアップを図り、その性能を格段に向上させた。開発した装置を用いて、多孔性配位高分子のガス吸着過程に関わる実験を実施しており、これまで以上の複合試料環境下での高精度なデータの取得が可能になってきている。 装置の一部とこれまで成果により日本放射光学会奨励賞を受賞し、COVID-19の影響で予定していた学会発表等はハイブリッド開催ではあったが本研究成果を国際結晶学会で発表し、その後データ解析や計測技術を活用した新たな共同研究にも繋がっている。以上のことから本研究の基盤となる計測システム群および研究成果についてはおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、予定通り、これまで開発を行ってきたガス雰囲気下でのサブ秒~ミリ秒でのリアルタイム粉末構造計測システムをさらなる高性能化を進めるとともに、高速回転試料ガスセルを利用した複合試料環境下において、ピラードレイヤー型の多孔性配位高分子を対象として二酸化炭素、アルゴン、酸素ガスのガスショット圧力、試料温度を変化させガス吸着過程における構造変化を系統的に調査系統的な実験を行う。これにより、ガス吸脱着過程や反応過程における周期構造とその周期からの配位子・ガス分子の構造変位・乱れに関してリアルタイムの結晶構造情報を引き出す。また、PythonとLabVIEWを用いたデータ処理・補正ソフトウェアの開発を引き続きブラッシュアップし、データ駆動科学を用いて時間分解回折データに対して解析を行う。さらに、本研究のステップアップとして、最近新しく導入された高エネルギーX線用の高速撮像可能な2次元CdTe検出器システムと本研究で開発した複合試料環境制御システムおよびガス圧力制御システムを同期させるための開発を行い、これまで以上の高精度なミリ秒の外場応答における時間分解粉末回折データの取得へ目指す。
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