研究課題/領域番号 |
20H04472
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
豊浦 正広 山梨大学, 大学院総合研究部, 准教授 (80550780)
|
研究分担者 |
茅 暁陽 山梨大学, 大学院総合研究部, 教授 (20283195)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | テキスタイルデザイン / 人工知能 / スタイル / コンピュータグラフィックス |
研究実績の概要 |
初年度の今年は,織物技巧のデータベース化を目指した画像解析の技術を英文論文誌に投稿し,採択となった.本研究は,中国・杭州電子科技大学の徐剛教授らとの国際共同研究の成果である.この論文では,織物の経糸と緯糸の交差パターンを実物観測画像から推定する手法を提案している.得られる交差パターンは2値の行列となるが,観測画像とのギャップが大きく,深層学習に対する訓練データとしては適さない.そこで,交差位置と交差の種類を表現する中間画像を設計し,深層学習によって交差パターンの抽出が高い精度でできることを確認した.この技術を利用して,実物しか残らない歴史的な織物サンプルのデータベースが効率的に構築できるものと考える. また,人工知能技術を織物に応用する内容で特許出願を行った.先行研究において,コンテンツ画像(入力画像)にスタイル画像(任意の模様や風合いを持つ画像)を合成する技術が提案されていた.この技術はスタイル転写や画風変換と呼ばれる.中でも前年に発表されたSTROTSSでは,コンテンツ画像とスタイル画像のどちらを強く反映するかを1つのパラメタで調整できる技術を実現している.STROTSSが解決できない問題として,スタイル画像が規則的な模様である場合に,コンテンツ画像の模様がつぶれることがあることがあった.また,領域ごとに別のパラメタで合成することができないことも問題として残っていた.これらを解決するために,スタイル画像の繰り返し間隔をあらかじめ複数設定した上で合成し,領域を指定した上で間隔とスタイル強度を順に当てはめることができるような操作を実装して,特許出願を行った.この技術によって,人工知能と織物パターン生成を組み合わせる研究のスタートを切ることができた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究実績の概要に示した具体的な成果の他に,山梨県産業技術センターとの共同研究の中で,歴史的作品に見られる特殊な技法を画像合成法で実現する手法が複数実現している.中国・杭州電子科技大学との共同研究では,単にRGB画像を観測するだけにとどまらない新しい画像解析法の検討を進めている.いずれも次年度には成果として外部発表ができるものと考えている. 本研究の最終目標は共創的デザイン基盤であるが,潜在的な利用者である山梨県郡内地域の織物企業との製品開発が進められてきており,開発したプロトタイプを提供するサイクルも回せるようになってきている. ただし,社会実装にあたって,新型コロナ感染防止のための新しい生活様式の影響が懸念される.研究フィールドとしている山梨県郡内地方は,晴着や舞台・イベント衣装としての需要がある高級織物を得意とする産地であり,これらの需要が失われることは向かい風となる.産地としてはマスクなどの新製品を開発しているが,本研究で考えるような,見た目に豪華な織物パターンが活かされる応用先とはしにくい.北欧のテキスタイルは長くて厳しい冬を室内で過ごすために洗練されたとされるが,同様にして,新しい生活様式で生じる需要に対応したような新しい製品の開発が必要である.研究としては,技術面からこれを支援することを目指したい.
|
今後の研究の推進方策 |
研究室で生まれる技術を産業技術センターや織物企業と共有し,フィードバックを反映しながら,製品化にまでつながる研究開発を進めたい.本研究では計算論的なモデル化がなされてこなかった技術を生産の現場から掘り起こして,モデル化して実装することを1つの目標としている.世界各地に伝統織物技巧が存在するが,そのほとんどは計算論的な理解とモデル化がなされていない.コンピュータ支援によって新しく織ることができる織物技巧をシステム上に多く揃えることによって,新たなデザインを実現する可能性を高めることができ,また,新たな利用者を引き込むことができる. 山梨県産業技術センターや各織物企業に現物として所蔵される織物作品のデータベース化にも取り組む.これまでに開発した対話的パターン解析システムを足掛かりに,織物パターンの解析を進める.データベースがある程度揃った段階で,織物からのスタイルの抽出と適用の課題に取り組む.織物パターンにおけるスタイルとは何かについて議論を進める. 織物技巧および織物スタイルを自由に利用できる対話的織物パターンデザインシステムを構築して,開発した技術を順次組み込む.システム上に入力された新たなモチーフに対して,既存の異なるスタイルを自由に適用できるようにし,織物パターンデザインの創発を支援する.新しい生活様式の需要を満たすような製品開発につながれば,織物産業全体への貢献は大きい.
|