研究課題/領域番号 |
20H04475
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
池田 美奈子 九州大学, 芸術工学研究院, 准教授 (00363391)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 伝統産業 / 文様デザイン / 染色型紙 / 注染 / 伝統産業の継承 |
研究実績の概要 |
本研究は、伝統的な型染産業のなかで創出され、大量の型紙に定着されてきた文様デザインを未来に継承し、幅広いデザイン活動に創造的に活用するためのアーカイブの構築を目指している。特に、伝統産業が長い歴史のなかで生み出し、蓄積してきたデザインの知を、いかに発展的に活用し、産業として成立させつつ未来に残せるか、そのためのアーカイブはどのようなものであるべきかを提示することが重要だと考えている。そこで、具体的な対象として、現在も稼働している東京の注染に使用されている現役の型紙を選定し、伝統産業として継承していく価値のある情報を見極め、アーカイブ化の具体的な方法を探求している。 当該年度においては、明治初期に創業した染物問屋に保管されている大量の未整理の注染の型紙を調査し、現代でも活用されている型紙から、かろうじて使用可能な型紙、さらに劣化が進み使用困難になっている型紙を含む約800点を、現代の製品に展開可能か否かを基準に選定し、スキャンしてデジタルデータ化した。現代に展開可能か否かの基準については、染物問屋の後継者と対話しながら実施し、その発話を記録した。発話の中から型紙の選定理由を抽出することで、「目利き」の無意識の直感的な選定基準を形式知化し、伝統産業を現代の産業として展開継承するための、アーカイブの分類の新たな軸とすることができるのではないかという示唆を得た。 また、800点の型紙をデータ化したことで、大量の型紙に定着された文様が造形的、時間的な観点から一覧できるようになり、これまで活用しづらかった型紙の活用が可能になることが確認できた。以上の結果から、現時点では、現役の型紙研究の初期の段階ではあるが、産業を視野に入れたアーカイブ化の可能性をひらく貴重な知見が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍によって、移動が制限されたため、染色型紙の現地調査、選定作業が進まず、本研究の基盤となる型紙のデータ化が遅延した。しかし、緊急事態宣言が解除されたタイミングで効率的に作業を進め、データ化の遅延を取り戻すことができた状況である。現在、約800点の型紙のデータ化が終了したことから、それらのデータに基づく文様の分析、背景の調査、さらにアーカイブの構造の検討など、次の段階に取り掛かっている。 また、型紙は、生産のための道具であると同時に、そこに刻まれた文様は知的財産として捉えられ、そのような制度がなかった江戸時代にも、慣習的に知的財産を保護する社会的な仕組みがあった。それは、現代のおいても明確な制度として運用されていない側面があり、アーカイブを未来に活用するためには、知的財産についての調査も不可欠であることを認識した。アーカイブの産業的な活用を目指す上では、当初の計画では深く認識していたなかったが、研究すべき課題であり、追加で取り組む必要が出てきたことも、やや遅れが出た一因となっている。
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今後の研究の推進方策 |
当該年度に計画、実施した、型紙の選定基準の策定、型紙の選出、型紙のデジタルデータ化、事業者および一次資料の調査、型紙の使用履歴の分析と解読、文様の文化的背景に関する調査を継続して、精度を上げていくとともに、次年度に計画している、型紙の製造工程の現地調査・事業者調査を行い、現地調査結果の整理、型紙の追加スキャニング、近未来の型紙生産技術と活用についての調査、新技術の活用と型紙アーカイブの検討を遂行する。 研究計画の変更点として、データ化する型紙の点数を削減したことがある。理由としては、当初2000点程度のスキャンを予定していたが、実際にスキャンできたのは800点程度で、さらに次年度に必要に応じて追加スキャンする計画であったが、全体で1000点程度になる見込みである、理由は、スキャンにかかる費用と作業が想定以上であったことが大きいが、800点をスキャンする過程で、ひとつの事業者で、型紙は数万の単位で存在するため、すべてを網羅することはいずれにせよ不可能であること、1000点ほどをデータ化すれば十分なパターンが得られることが判明した。よって、次年度は1000点のサンプルに基づいて分析し、アーカイブ化に必要な調査と検討を進めることとする。
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