発達期の視覚経験がクロスモーダル抑制の形成にどのように関係するのか明らかにするために、先天盲および後天盲を含む視覚障碍者および晴眼者を対象におこなった機能的MRI実験データを解析した。被験者が1Hzのリズムに合わせて足首の回旋運動を行っている最中の視覚領野のMRI信号の変化を調査した。その結果、晴眼者では視覚領野の広範囲に抑制がみられた一方で、視覚障碍者では全般的にこれらの抑制が弱いことが明らかとなった。細胞構築学的マップを用いて、視覚領野ごと(20領域)の活動量を詳細に調べたところ、なかでも低次視覚野(V1,V2)および背側視覚経路上に位置する高次視覚野(hOc4d)において、視覚障碍者における抑制の減弱が顕著であることがわかった。これらの結果は、運動中におけるクロスモーダル抑制は背側視覚経路で視覚経験に依存して形成される可能性を示唆している。加えて、視覚を喪失してからの期間が比較的長い(20年以上)人では、低次視覚野の抑制が維持されているが、期間が短い人では抑制が減弱している傾向がみられた。一般に、先天盲あるいは早期視覚喪失者など視覚喪失期間が長い場合には、彼らの一次視覚野は視覚以外のモダリティー情報を処理するようになると言われている。今回得られた結果の背後には、視覚喪失にともなう視覚野の機能再構築が関わっている可能性が高い。今後は、新たに視覚野に獲得された機能とクロスモーダル抑制との対応関係などを調べることによってこの点を検証する必要がある。
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