研究課題/領域番号 |
20H04498
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
榛葉 健太 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (80792655)
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研究分担者 |
高山 祐三 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 主任研究員 (60608438)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 疼痛 / 感覚神経細胞 / 脱髄 / 微小電極アレイ / 軸索 |
研究実績の概要 |
本研究では,マイクロデバイスを用いて軸索伸長および髄鞘化を制御し有髄・無髄状態を作り分け,HD-MEAを利用した高精度電気計測により痛み刺激に対する応答をサブ細胞レベルで計測する.計画初年度にあたる本年度では,基盤技術の開発を行った.具体的には,1) 髄鞘化した軸索から活動を計測するための手法の開発,2)培養条件の最適化を行った.以下に,それぞれの詳細を述べる. 1) 計測手法の開発.計測の効率化には,同時に複数の細胞から活動を計測できること,および軸索の信号が効率的に検出できることが重要である.そこで,計測信号からの解析手法を改良した.振幅が小さな軸索からの信号に,より大きな細胞体からの信号が混入するとノイズレベルが上昇し,十分に信号を検出できない.そこで,外れ値検出のアルゴリズムを導入し,軸索に対する検出性を向上させた.それにより,振幅5uV未満の信号も検出できるようになった.加えて,検出した軸索の信号からは,局所的に振幅が小さく,伝導速度が速い部分が検出され,目指していた跳躍伝導の検出に成功したと結論づけた. 2) 髄鞘形成条件の最適化.培養環境において髄鞘の形成効率を最大化する条件を検討した.従来手法であるアスコルビン酸の添加に加えて,cAMPを増加させることで,シュワン細胞の髄鞘形成効率が上昇することが知られている.しかし,試したところ,非神経細胞が顕著に増殖し,培養細胞が底面から剥離する現象が多く観察された.そこで,培養初期に分裂細胞を除去したところ,髄鞘形成と細胞の組成が両立できた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の目的は計測手法の開発と培養条件の最適化であった. 計測手法については,跳躍伝導と思われる現象が検出されたことにより,来年度以降に利用できる手法の検出に成功した.軸索の伸長方向を配向させるためのマイクロデバイスの開発については,コロナウイルス感染症の蔓延から実験室への滞在時間が短かったことで着手できなかった.そのため,PCでできる作業に注力し,次年度以降に行う予定であった数理モデル開発に着手した.それにより,実験的に検出された伝導と比較するための数理モデルの開発に成功した. 細胞の培養条件については,蛍光観察と電子顕微鏡による観察から,培養条件においても十分な形状の髄鞘が形成されることを確認した.さらに,試薬の添加により軸索を早期に効率よく形成させるための条件を検討した.結果として,非神経細胞の混入率の低下および髄鞘形成の効率の向上を両立できる条件を得た. 以上から,現在までの進捗状況について,おおむね順調であると評価した.
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今後の研究の推進方策 |
今後は,初年度に開発した髄鞘化した神経線維からの活動検出手法を用いて,痛みを発生させる様々な刺激を入れた際のデータの取得を行っていく.特に,脱髄を誘発すると考えられるシュワン細胞への増殖促進剤の添加,および神経細胞の軸索の末梢端に対する酵素の働きを制御する試薬を添加し,活動の頻度や伝導特性の変化を評価する. 併せて,ヒト神経細胞を扱うために,分担者と協力してヒトiPS細胞の分化誘導法を検討する.痛み信号への関係が深いC線維を有するタイプの神経細胞を効率的に得ることを目指し,試薬の濃度と作用時間を決定する.
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