研究実績の概要 |
最終年度である本年度は,痛みの閾値が低下する現象である感作状態を評価するための実験を行った.計測を効率よく行うために実験条件を工夫し,同時に複数の感覚神経細胞から薬理応答を計測することに成功した.結果,カプサイシンに対する応答が上昇する現象を計測できた.以下に,効率的な計測のための実験手順,および得られた感作状態について詳細を述べる.
感作状態を効率よく計測するためには,同時に多数の感覚神経細胞から信号を計測する必要がある.計測装置の特性上,26,000点の電極から1,000点程度を選定する必要がある.通常,全電極を走査的に計測して電極を選択するが,感覚神経細胞は持続的な発火を示さないため,電極の選択が難しい.そこで,神経細胞特異的に取り込まれる蛍光色素NeuOを取り込ませた.蛍光観察した結果を基に電極を配置したところ,従来手法と比較して5倍程度の神経細胞から活動を計測できた.
感作状態では,各種の刺激に対する応答の閾値が低下する.培養系で感作状態を模擬するために,先行研究を参考に,substance Pによってカプサイシンの受容体であるTRPV1の感受性を上昇させた.結果,substance Pによりカプサイシンに対する応答の数が20%上昇した.また,substance P受容体(NK1R)の阻害剤(アプレピタント)の添加により,感受性の上昇は阻害された.以上から,substance PがNK1Rを介してTRPV1の感受性を上昇させたことが示された.配置した電極のうち32%の電極から感受性の上昇を計測できた.また,計測後の細胞を染色した結果,TRPV1とNK1Rを共発現した細胞のうち28%で感受性の上昇が計測された.以上から,本計測システムを用いることで,感覚神経細胞の感作状態を,先行研究と比較して高い効率で計測できることが示唆された.
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