研究課題
本研究の目的は、超音波を利用する新手法――音響誘起電磁法(ASEM)法――を用いて、生体組織における圧電性と強誘電性を明らかにし、医療診断への可能性を追求することである。生体組織における圧電性の測定は、ほとんどの場合、十分に乾燥させた組織片に限られていたため、医学的関心に向けた研究は困難であった。近年我々が開発したASEM法の特徴は、(i) 生体環境に近い湿潤した組織や臓器の圧電性を評価できる、(ii) 超音波走査により圧電分布を画像化できる、ことである。計画1.生体軟組織の圧電性・強誘電性を検証:水中のサンプルに対してASEM信号強度の引張応力依存性を測定するための引張試験機を試作した。アキレス腱に対して弾性域から塑性域にわたる力学特性を計測できることを確認した。計画2.圧電係数の異方性:骨とアキレス腱に対して、超音波により誘起される電気分極の向きを測定する方法を考案し、これにより、ASEM信号が圧電係数の異方性に対応していることが判明した。現在、論文準備中。計画3.疾患とASEM信号との相関に関する研究:凍結肩(五十肩)における関節包(靭帯)の線維化に対する評価を始めた。ヒトの関節包サンプルを測定するため、倫理委員会に承認手続きを行い、了承された。慢性心筋梗塞モデルについては論文準備中。骨粗鬆症モデルについては、骨密度とASEM信号強度に相関が確認された。計画4.装置開発:パルス圧縮技術を用いると、測定時間が1000分の1ほどに短縮されることを実証した。これは、今後の計測効率化につながり、臨床現場での活用における技術的ハードルを解消する成果である。
2: おおむね順調に進展している
当初計画通りに、引張応力下での測定セットアップが完了し、初期実験が得られ始めている。また、異方性の研究も進展があり、論文執筆の準備をしている。特筆すべき点は、パルス圧縮技術の導入である。予想以上にSN比が改善され、測定時間が圧倒的に短縮される。ただし、データ取得後に相関を取る計算に時間を要するため、FPGA等により情報処理の高速化が求められる。
当初研究計画に大きな変更はない。疾患とASEM信号との相関に関して、医療現場からのニーズがあり、凍結肩の関節包に関する研究が追加された。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (6件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
ISIJ international
巻: 60 ページ: 948-953
10.2355/isijinternational.ISIJINT-2019-481
IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control (IEEE T-UFFC)
巻: 67-4 ページ: 825-831
10.1109/TUFFC.2019.2956040
http://web.tuat.ac.jp/~ikushima/index_j.html