研究課題
本研究の目的は、超音波を利用する新手法――音響誘起電磁法(ASEM)法――を用いて、生体組織における圧電性と強誘電性を明らかにし、医療診断への可能性を追求することである。生体組織における圧電性の測定は、ほとんどの場合、十分に乾燥させた組織片に限られていたため、医学的関心に向けた研究は困難であった。近年我々が開発したASEM法の特徴は、(i) 生体環境に近い湿潤した組織や臓器の圧電性を評価できる、(ii) 超音波走査により圧電分布を画像化できる、ことである。2021年度までの実績を以下に記す。計画1.生体軟組織の圧電性・共有電精を検証:ASEM信号強度の引張応力依存性を測定するためのセットアップが完成し、アキレス腱等の組織において引張試験を実施した。生体組織は不均一であるため、まずは単一のコラーゲン束におけるASEM信号の引張応力依存性を調べる。2021年度に単一コラーゲン束のASEM信号検出を確認した。計画2.圧電係数の異方性:骨・腱等のコラーゲン配向性を定量評価する方法を確立した。計画3.疾患とASEM信号との相関に関する研究:骨と脱灰骨における圧電分極の異方性について新たな知見が得られた。また、XRDにより、骨粗鬆症モデルではコラーゲンの結晶性が低下していることが明らかにされた。、計画4.装置開発:パルス圧縮技術の導入に成功した。また、アレイプローブにより、エコー像とASEM像のBモードが測定可能になった。今後、アレイプローブによる画像化とパルス圧縮技術を融合する計画である。
2: おおむね順調に進展している
1. 単一コラーゲン束のASEM信号検知に成功し、コラーゲン束からマクロな組織へと腱の各階層構造におけるASEM信号の応力依存性を調査できる目途がついた。2.コラーゲン配向性と音響誘起分極の異方性の原因が明らかになり、超音波により非侵襲にコラーゲン配向性を取得できる見込みができた。3.骨と脱灰骨の音響誘起分極の異方性の違いが謎であったが、乾燥・湿潤状態の違いが原因であることがわかり、今後の研究方針が明確になった。4.アレイプローブによる画像化が可能となり、高速画像化へ向けて一歩進んだ。
当初研究計画に大きな変更はない。生体線維組織の音響誘起分極のメカニズムをさらに明確にし、臨床現場への応用を加味した装置開発につなげる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (7件) (うち国際学会 3件) 備考 (1件) 産業財産権 (1件)
IEEE Transactions on Ultrasonics, Ferroelectrics, and Frequency Control
巻: 69 ページ: 1478~1484
10.1109/TUFFC.2022.3149386
Proceedings of Symposium on Ultrasonic Electronics 42
巻: s3186 ページ: 1J3-4
http://web.tuat.ac.jp/~ikushima/index_j.html