研究実績の概要 |
日本は世界で最も胃がん患者発生率の高い国であり、年間45,000人が新たに胃がんを発症している。胃がん発症の主な原因は、ピロリ菌感染による数十年にわたる慢性的な炎症と言われており、ピロリ菌の抗生物質による早期除菌は胃がん発症の予防に有効である。 胃がんを発症した場合、内視鏡手術や胃の部分切除、全摘出が行われる。しかし、胃切除術後には、胃の縮小、内分泌機能の低下による消化管の協調不全が起こり、消化不良やダンピング症候群、内因子という糖タンパク質の減少により引き起こされる巨赤芽球性貧血など、胃再建後の様々な体の変調を克服する必要性が生じる。 本研究では、マウスの胃をモデルに用いて、機能性の胃上皮組織の再生のための基盤技術の開発を行った。成体マウスの胃から上皮細胞の集合体である胃腺を採取し、無血清培地で三次元培養することで、主に増殖性の幹細胞と粘液分泌前駆細胞から成る細胞集団を調製する方法を開発した。また、成体マウス胃組織のシングルセル解析データを駆使することで、特に胃上皮細胞の分化制御シグナルを探索した結果、EGFシグナルが幹細胞から粘液分泌細胞への分化を促進することを見出した。一方、NK-kBシグナルを活性化すると分化シグナルが抑制されて幹細胞状態が維持されることを見出した。これらの成果をまとめて現在論文投稿中である。今後この幹細胞が胃の他の機能性上皮細胞にも分化するのかについても検証したい。
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