再生心筋組織レベルの収縮力の発揮には組織全体が同期して拍動することが重要と考え、心筋細胞の足場となるゲルの硬さが拍動の同期性に及ぼす影響の解明に取り組んだ。I型コラーゲン溶液に化学架橋剤を添加してから昇温することで、物理架橋点と化学架橋点の双方が形成されるゲル(物理化学ゲル)を作製した。化学架橋剤未添加のコラーゲンゲル(物理ゲル)に比べ、物理化学ゲルは、約3倍の圧縮弾性率を有していた。また、両ゲル上に播種した心筋細胞の拍動の同期性をセルモーションイメージングシステム(SI8000、ソニー製)で評価した結果、物理化学ゲル群の拍動の同期性は、物理ゲル群のそれに比べ、有意に高かった。また、物理ゲル群に比べ、物理化学ゲル群の心筋細胞数は少ないながらも、収縮関連タンパク質(心筋トロポニンT、cTnT)の発現が高かった。なお、組織培養用ポリスチレン(弾性率:3 GPa)上で培養された心筋細胞の拍動同期性は、両ゲル群よりも低かった。以上より、足場が硬すぎると心筋細胞の拍動の同期性は低いものの、硬いゲル上で培養された心筋細胞ではcTnTの発現が高く、拍動の同期性が高いことが分かった。 前年度に確立した、薄板ガラスをカンチレバーとして用いる組織レベル収縮力計測系にて計測した再生心筋組織レベルの収縮力と、コラーゲンゲル(せん断弾性率:24 Pa)上の心筋細胞をセルモーションイメージングシステムで解析することで得た心筋細胞レベルの収縮力との比較を行った。その結果、試行数が少ないことは考慮せねばならないが、後者を基に計算して得られる組織レベルの収縮力に比べ、前者の実測した収縮力は約10倍大きいことが分かった。これより、細胞レベルの収縮力が相乗的に作用した結果、組織レベルでは、個々の細胞が生み出す力よりも大きな収縮力が生み出されることが示唆された。
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