研究課題/領域番号 |
20H04510
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
出沢 真理 東北大学, 医学系研究科, 教授 (50272323)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | Muse細胞 / 多能性幹細胞 / 貧食 / 分化 / eat-me signal |
研究実績の概要 |
Muse細胞はヒト培養骨髄間葉系幹細胞より採取した。分化細胞はマウス心筋細胞、ラット神経細胞、ラット肝細胞を培養し、薬剤処理によって細胞死を誘導し、細胞破片を培養ヒトMuse細胞に投与した。 【1)In vitro, in vivoでの貪食と分化のlive観察】共焦点レーザー顕微鏡とImaris softwareで解析したところ90%前後のMuse細胞が細胞破片を貪食した。GATA-4のプロモーターにmcherryのレポーターを組み込んだヒトMuse細胞にマウス心筋細胞の死細胞片を投与したところ、貪食後48時間以内にGATA-4-mcherryを発現し、横紋を示すなど、迅速な心筋細胞様への分化を示した。in vivo実験ではラットで脳梗塞を作成し、NeuroD-CFPを遺伝子導入したヒトGFP-Muse細胞を投与し、多光子レーザー顕微鏡で梗塞部位をLive観察した。その結果、脳内で梗塞によって死んだ神経系細胞を貪食したMuse細胞がNeuroD-CFPを新たに発現し始めることが示された。 【2)貪食による分化機構】取り込まれた傷害細胞の情報がどのようにMuse細胞内で作用するかを見るために免疫電子顕微鏡で観察を行った。その結果、マウス・ラット由来phagosomeの中身がMuse細胞の細胞質内に放出される現象を捉えることができた。またMuse細胞の貪食に関わる受容体としてはintegrin B3, CD36などが関わっていることがわかった。 【3)ES細胞とiPS細胞での検討】ES細胞はマウス細胞を、iPS細胞はヒト線維芽細胞から誘導したものを使用した。またヒト奇形腫より樹立された多能性幹細胞NTERA2も用いた。これら3種類とも、Muse細胞で発現する貪食の受容体やマクロファージで出ている受容体は発現していないことがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通りにおおむね遂行している。ただ予想外にES, iPS細胞では貪食に関する受容体が全くでておらず、細胞片を投与してもMuse細胞のようには貪食しないことがわかったので、これらの受容体を新たに導入することを検討すべきと思われる。一方他の幹細胞として間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell; MSC)を用いて検討してみた。Muse細胞はMSCの中に数パーセント含まれているので、Muse細胞を除去したMSC(non-Muse細胞)を用いて検討したところ、これらの細胞は貪食能があることがわかった。ES、iPSに平行して、これらの細胞での検討も新たに加えて進めていってはどうかと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
1)Muse細胞における貪食に関わる因子の同定 マクロファージではTIM-4などphosphatidyl serineを認識する受容体の他に、CD91, TAM receptor, alpha-V beta 3 integrin等が関与する。マクロファージとMuse細胞の類似性の検討を進め、Muse細胞でのこれらの発現を比較する。Muse細胞ではCD36, CD91, beta 3 integrinがMuse細胞の貪食に関与しているデーターを得ているので、他の貪食受容体の検討を行う。これらのデーターを基にRNA干渉による発現抑制を用いて貪食におけるそれぞれの因子の寄与を計る。 2)投与される分化細胞破片が貪食後、細胞内にどのように取り込まれ、分布していくのか、ゲノム特に転写因子の変化に着眼してGATA-4―mcherryノックイン心筋細胞などを用いてMuse細胞の時と同様の解析を行う。 3)分化をより促進させる方法を検討する。Boyden chamberを用いて、傷害組織からの因子を供給し、シグナルの強化を図ってみる。
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