研究課題
養子免疫療法は血液系がんで著効しているが、固形がんに対しては期待するほどの結果は得られていない。この原因として、がん組織へ免疫細胞が浸潤しにくいことが挙げられる。そこで本研究では、マイクロバブルと超音波の併用によるがん組織内の免疫微小環境を抗腫瘍免疫型へ変化させ、がん組織への免疫担当細胞の浸潤性改善による抗腫瘍効果の増強を目標とした。まずはじめに、マイクロバブルと超音波照射の併用による内在性免疫担当細胞の活性化について検討した。担がんモデルマウスの固形がんにマイクロバブルを腫瘍内投与し超音波照射した際のがん治療効果を評価したところ、腫瘍の増殖抑制効果が認められた。このがん治療効果に対する抗腫瘍免疫系の関与を検討するため、細胞傷害性T細胞を枯渇したマウスにおいて上述の治療を行ったところ、腫瘍の増殖抑制効果が完全に消失した。このことから、マイクロバブルと超音波の併用によるがん治療に細胞傷害性T細胞がエフェクター細胞として関与していることが示された。そこで、マイクロバブルの投与を静脈内投与に変更し、がん治療効果を検討した。その結果、マイクロバブルを腫瘍内投与した時より、治療効果が減弱してしまった。この原因として、マイクロバブルの安定性の低さが考えられた。すなわち、血中に投与したマイクロバブルの安定性が悪く、血中から速やかに消失し、超音波照射による機械的作用を十分に引き出すことができなかったためと考えられた。そこで、血中での安定性や滞留性に優れたマイクロバブルの開発を行うこととした。マイクロバブルの安定性は、内封ガスを閉じ込める役割を担う外殻成分により大きく左右される。本検討において、外殻成分の最適化を行ったところ、ジステアロイルフォスファチジルセリン(DSPG)を外殻に導入することで安定性が向上した。今後は、このマイクロバブルによる抗腫瘍免疫への影響について検討する。
2: おおむね順調に進展している
マイクロバブルと超音波の併用により、細胞傷害性T細胞を中心とした細胞性免疫系の賦活化が確認できた。また、マイクロバブルの静脈内投与と超音波照射の併用でがん治療効果を高める可能性のある新たなマイクロバブルの開発に成功した。このように、静脈内投与での治療に進むことのできるマイクロバブル開発まで進んでおり、順調に研究が進展している。今後は、このマイクロバブルを利用した抗腫瘍免疫誘導を試みる。
新たに開発したマイクロバブルと超音波の併用による血管内皮細胞への作用を評価する。この評価では、主にT細胞ががん組織に浸潤するために必要なICAM-1やE-selectinの発現に対する影響を in vitro において評価する。また、in vitro の三次元培養で管腔形成させた血管内皮細胞へのマイクロバブルの振動や圧壊による機械的作用を超高速度カメラによる撮像で観察し、細胞への作用を可視化する。がんモデルマウスにおけるマイクロバブルと超音波照射による腫瘍内免疫微小環境の変化をフローサイトメトリーや組織化学的観察により評価する。なお、移入する細胞に関しては、CD3/28抗体含有培地で活性化したT細胞、CD8陽性T細胞リッチフラクションなど最適な移入細胞の検討も行う。さらに、養子免疫療法に対するマイクロバブルと超音波照射のがん治療効果への影響や移入細胞のがん組織への浸潤性改善効果を検討する。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件) 備考 (1件)
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