研究課題/領域番号 |
20H04519
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研究機関 | 帝京大学 |
研究代表者 |
鈴木 亮 帝京大学, 薬学部, 教授 (90384784)
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研究分担者 |
工藤 信樹 北海道大学, 情報科学研究院, 准教授 (30271638)
岡田 欣晃 大阪大学, 薬学研究科, 准教授 (50444500)
小山 正平 大阪大学, 医学系研究科, 特任助教 (80767559)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 養子免疫療法 / マイクロバブル / 超音波 / イムノモジュレーション / がん免疫療法 / 乳がん |
研究実績の概要 |
現在、T 細胞療法に代表される養子免疫療法によるがん治療が行われており、血液系がんに対して良好な臨床成績をあげている。しかし、固形がんにおいては期待するほどの結果が得られていない。この要因として、移入した T 細胞の腫瘍組織への低浸潤性や腫瘍組織内の免疫抑制的環境による T 細胞の不活性化などが挙げられる。そこで本研究では、超音波照射によるマイクロバブルの収縮・膨張や圧壊といった機械的作用に着目し、固形がん組織内の血管透過性の促進や腫瘍組織の傷害に伴う腫瘍内環境の変化の誘導による、養子免疫療法の治療効果の増強を検討した。乳がん細胞株移植マウスにマイクロバブルを静脈内投与し、腫瘍組織へ超音波を照射した。その 1 日後に CD8 陽性 T 細胞を静脈内から移入する養子免疫療法を行った。その結果、未治療群と比較して、マイクロバブルと超音波照射群において、抗腫瘍効果は認められなかった。一方、CD8 陽性 T 細胞移入群において、わずかな抗腫瘍効果が認められた。さらに、マイクロバブルと超音波照射後に CD8 陽性 T 細胞を移入した群では、顕著な抗腫瘍効果が認められた。このことから、マイクロバブルと超音波照射が、腫瘍内環境の変化を誘導し、養子免疫療法の効果を増強したものと考えられた。今後は、マイクロバブルと超音波照射による腫瘍内環境の変化を免疫学的に解析し、抗腫瘍効果の増強メカニズムに関して検討を進める予定である。また、本治療効果の最適化を図るため、マイクロバブルの投与量や超音波照射条件の最適化を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前年度は、マイクロバブルを腫瘍内投与し、腫瘍組織に超音波を照射することで、細胞傷害性T細胞を中心としたエフェクター細胞が活性化され、腫瘍の増殖抑制効果が得られていた。このことから、マイクロバブルと超音波照射の併用による腫瘍内免疫環境の変化(イムノモジュレーション)が効率よく誘導されたものと考えられた。そこで本年度は、マイクロバブルの投与方法を静脈内投与に変更し、がん組織に超音波照射した時の抗腫瘍効果を検討した。しかし、この方法での抗腫瘍効果が、ほとんど認められなかった。そこで、マイクロバブルと超音波照射後にマウスから回収した CD8 陽性 T細胞を移入したところ、T 細胞移入のみの細胞と比べ、優れた治療効果が認められた。このように、本年度の検討でマイクロバブルと超音波照射の併用が、養子免疫療法の治療効果増強のための腫瘍内の免疫環境の変化を誘導していることが推察された。本年度予定していた治療効果の増強効果が順調に得られたため、次年度は、抗腫瘍効果の増強メカニズム解析に関する研究を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究で、マイクロバブルと超音波照射の併用による固形がんに対する養子免疫療法の治療効果増強が達成できた。そこで次年度は、この治療効果の増強メカニズムに関して、解析を進めていく。まずは、マイクロバブルと超音波照射により、腫瘍内の免疫環境の変化が生じたものと考えられるため、処置後のサイトカインやケモカインの発現をリアルタイム PCR または ELISA により評価する。また、腫瘍内の免疫担当細胞のプロファイルが変化していることも予想されるため、マイクロバブルと超音波照射後に腫瘍組織内に存在する T 細胞やマクロファージなどの免疫担当細胞の変化をフローサイトメトリーや免疫染色により解析する。さらに、養子免疫療法後の腫瘍内免疫環境の変化についても同様の方法で解析する。また、養子免疫療法に対する治療効果の増強は、マイクロバブルと超音波照射の前処理により達成されたことから、マイクロバブルの投与量や超音波照射条件の最適化により、治療効果のさらなる増強が見込まれる。そこで、治療条件の最適化を行い、養子免疫療法におけるイムノモジュレーションの有用性について考察する。
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