がん免疫療法は臨床的に優れたがんの治療効果を示すが、奏効率が30%程度と低いことが課題である。PD-1/PD-L1などの免疫回避機構以外にも、がん周辺環境が免疫回避にとって重要だと考えられている。本研究では、がん免疫の抑制やがん生育環境の構築を通じてがんの増殖に有利な環境を作ることに寄与している腫瘍随伴マクロファージ(TAM)に着目し、TAMの代謝に介入することで細胞機能のリプログラミングやがん免疫療法の治療効果増強が可能か検討する。本研究課題では、細胞内のコレステロール代謝に介入することが可能なシクロデキストリン含有ポリロタキサンを用いて、コレステロール代謝の調節とTAMの機能の変化について検討する。 2022年度の研究では前年度までに合成法を確立したペプチド修飾ポリロタキサンの機能評価、および担癌モデルマウスに対する抗がん作用の評価を行った。オリゴエチレングリコールを化学修飾し水溶化したポリロタキサンのみを投与した場合には抗がん作用は高用量でも確認されなかった。同様に、細胞障害性を有するメチル化ポリロタキサンも担癌モデルマウスに抗がん作用は示さなかった。しかしながら、がん細胞を標的とするペプチドを修飾したメチル化ポリロタキサンは腫瘍の増大を効果的に抑制することを見出した。腫瘍へのポリロタキサンの集積量を定量した結、ペプチドの修飾によって有意に腫瘍組織への集積量が増加することが明らかになった。本結果は、がん組織に対する標的指向性をポリロタキサンに賦与する必要があることを示唆している。また、ペプチドを修飾したメチル化シクロデキストリンは抗腫瘍作用や腫瘍集積性がポリロタキサンと比較すると低かったことより、ポリロタキサン構造を用いることが重要である。今後は、抗腫瘍効果の作用機序等について詳細な評価を実施する。
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