脳梗塞などで損傷した脳は再生しないと長く考えられていたが、近年、脳が持つ潜在的な再生能力を発揮させて治療するという概念が注目され始めてきた。申請者らは最近、脳の潜在的再生能力を発揮させるためのバイオマテリアルを開発し、脳梗塞7日後での脳内単回投与でマウス脳梗塞モデルの運動機能回復を担う材料開発にも成功した。しかしながら、発症1日後から7日後までに治療介入して、脳の再生を促す方法はほとんど知られていない。本研究では、発症1日後から7日後までに活性化する免疫反応を制御することで、神経血管再生や脳梗塞の機能回復を促進させることを目指す。具体的には、逆遺伝学の介入実験で重要性が証明されている抗炎症性サイトカインIL-10に着目し、IL-10を脳内で徐放させる超分子ペプチドを作製し、マウス脳梗塞モデルに投与して効果を検討する。2020年度は、自己組織化でゲル化する超分子ペプチドを作製し、IL-10のC末端にその超分子ペプチド配列を付加し、IL-10をゲルに取り込ませて徐放させる技術の確立を目的とした。はじめに、IL-10 cDNAをマウス脾臓からクローニングし、C末端に超分子ペプチド配列を付加した遺伝子発現ベクターを作製し、293T細胞を用いてタグ付きIL-10を得た。超分子ペプチドタグを付加したIL-10の生物学的活性はIL-10依存的に増殖する肥満細胞MC/9を用いて評価し、野生型IL-10と同等の生物活性を有することを確認した。さらに、超分子ペプチドに取り込ませたタグ付きIL-10は、野生型IL-10に比べて試験管内でゲルから緩やかに放出されることを見出した。
|