脳梗塞などで損傷した脳は再生しないと長く考えられていたが、近年、脳が持つ潜在的な再生能力を発揮させて治療するという概念が注目し始めてきた。申請者らは最近、脳の潜在的再生能力を発揮させるためのバイオマテリアルを開発し、脳梗塞7日後での脳内単回投与でマウス脳梗塞モデルの運動機能回復を担う材料開発にも成功した。しかしながら、発症1日後から7日後までに治療介入して、脳の再生を促す方法はほとんど知られていない。本研究では、発症1日後から7日後までに活性化する免疫反応を制御することで、神経血管再生や脳梗塞の機能回復を促進させることを目指す。具体的には、逆遺伝学の介入実験で重要性が証明されている抗炎症性サイトカインIL-10に着目し、IL-10を脳内で徐放させる超分子ペプチドを作製し、マウス脳梗塞モデルに投与して効果を検討する。2022年度は、11アミノ酸からなるJigSAP配列をIL-10のC末端に付加して、IL10-JigSAPを徐放させる技術確立に成功した。予想通り、発症3日後の脳梗塞モデルマウス脳内にIL10-JigSAP投与することで、炎症性サイトカインTNFaやIL-6の発現減少を認めた。しかしながら、恒常的にIL-10を過剰発現するマウスとは異なり、発症3日後のIL10-JigSAP投与では、脳梗塞で生じる歩行機能が悪化することが判明した。以上の結果から、IL-10の作用時期により、脳梗塞病態が改善する場合と悪化する場合があることが示唆された。
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