2022年度は、ホウ素中性子捕捉療法への展開へ向けた新規化合物を合成した。ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)とは、ホウ素(10B)と低速(熱)中性子の核反応によって放出されるヘリウム核(4He原子核:(α線))とリチウム核(7Li原子核)によってがん細胞を破壊する治療法である。現在、チロシン擬似体であるステボロニン(BPA)が唯一臨床試験で用いられているが、溶解性と腫瘍特異性が課題である。そこで、ステボロニン中のボロン酸をピリジルボロン酸に置換した新規ボロン酸化合物(BAPA)を合成することで、水溶性と腫瘍集積性の向上を図った。BPAは、がん細胞表面で高発現するアミノ酸トランスポータの一種であるLAT-1による取り込みに依存している。したがって、BAPAの構造により、LAT-1とシアル酸の二重ターゲティングが可能と考えた。この仮説に基づき、KPC膵がん細胞を用いて評価した結果、腫瘍集積性が劇的に向上することを確認した。親水性ピリジン環により水溶性が増大したため、フルクトースなどの添加剤を用いることなく薬剤投与が可能となり、すい臓がんなどの難治性がんの効果的な治療が期待される。
|