研究課題/領域番号 |
20H04535
|
研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
土居 信英 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 教授 (50327673)
|
研究分担者 |
藤原 慶 慶應義塾大学, 理工学部(矢上), 准教授 (20580989)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 蛋白質 / 核酸 / 癌 / バイオテクノロジー / 共焦点顕微鏡 |
研究実績の概要 |
まず、独自のヒトSyncytin1由来ペプチドの膜透過促進活性の機能に重要なアミノ酸を特定するために、前年度に引き続き、部位特異的変異を導入した膜透過促進ペプチドを融合した蛍光タンパク質eGFPを大腸菌で大量発現・精製し、ヒト培養細胞に添加したときの細胞内取り込みの変化を共焦点蛍光顕微鏡で観察した結果、膜透過促進ペプチドがベータ構造を形成することが重要であることを見出した (Biochem. Biophys. Res. Commun. 586, 63-67, 2022)。 また、様々ながん細胞で高発現しているEGFRを認識するpH応答性の小型抗体をmRNAディスプレイ法により試験管内選択することに成功し、ELISA による2次スクリーニングをおこなった結果、pH7.4よりもpH5.5でEGFRへの結合活性が低下する抗体クローンを取得することができた。得られた抗体と膜透過促進ペプチドをeGFPに融合したタンパク質を大腸菌で発現・精製し、EGFR発現細胞に添加した結果、細胞選択的なeGFPの取り込みを確認することができた (学会発表)。 さらに、新たな膜融合ペプチドとしてCD9由来の21アミノ酸残基のペプチドが細胞透過性ペプチドとして機能することを見出した (国際学会発表)。 なお、細胞内の疾患標的に対するバイオ医薬として、当研究室で作製済みのアンドロゲン受容体スプライスバリアント7 (AR-V7) に対する小型ドメイン抗体に、受容体結合ペプチドおよび膜透過促進ペプチドを核移行配列とともに融合したタンパク質を大腸菌で大量発現・精製し、前立腺がん由来LNCaP細胞に添加した結果、十分な核局在がみられなかったことから、その原因究明をおこなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
融合タンパク質の核局在の検討をおこなったところ、当初の想定に反し、核移行配列を融合タンパク質に連結しても、細胞内における十分な核局在がみられないことが判明したことから、その検討のために遅れが生じたため。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究計画では、これまで創薬ターゲットとすることが困難であったがん細胞内の疾患標的に結合するバイオ医薬を、がん細胞選択的に細胞内に送達させることで、2重の鍵をもつきわめて副作用の少ないがん細胞選択的膜透過バイオ医薬を開発することを目的としている。 まず、前年度に引き続き、バイオ医薬としてAR-V7に対する小型ドメイン抗体に、前年度に創出したEGFRに対するpH応答性の小型抗体、および、膜透過促進ペプチドを核移行配列とともに融合したタンパク質を大腸菌で大量発現・精製し、これをEGFRを高発現する培養細胞の培地に添加したとき、細胞質を経由して核内にデリバリーされる最適な条件を確立する。また、その結果、ARおよびAR-V7の転写活性が阻害されることを、AR転写調節領域の下流にルシフェラーゼ遺伝子を挿入したレポータージーンアッセイにより確認する。 さらに、本手法の汎用性を示すために、以下の2点についても拡張して検討をおこなう。第一に、'undruggable'ながん細胞内の疾患標的として代表的なMYCについても検討する。具体的には、MYCに結合する小型ドメイン抗体をmRNAディスプレイ法により取得し、上記AR-V7の場合と同様の手法によりEGFR発現がん細胞選択的かつ効率的な細胞内デリバリーが可能かどうか検証する。第二に、細胞選択的なデリバリーの標的マーカーとして肝細胞特異的に発現しているアシアロ糖タンパク質受容体 (ASGR) についても検討する。具体的には、膜透過促進ペプチドを融合したタンパク質をASGRの天然リガンドで修飾することで、肝細胞選択的なタンパク質の細胞内デリバリーが可能かどうか検証する。
|