研究課題/領域番号 |
20H04546
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
熊田 博明 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (30354913)
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研究分担者 |
高田 健太 群馬県立県民健康科学大学, 診療放射線学部, 准教授 (10640782)
中井 啓 筑波大学, 医学医療系, 准教授 (50436284)
増田 明彦 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (70549899)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | BNCT / 患者位置合わせ / 治療計画システム / 延長型ビームコリメータ / 加速器中性子源 / リアルタイム計測 |
研究実績の概要 |
ホウ素中性子捕捉療法(BNCT)は、X線治療などと比べて照射時間が1時間程度と圧倒的に長く、これにより照射中に①患者の位置変動、及び、②発生中性子の強度変化が生じる可能性があり、これに起因して照射条件が変動するため、治療精度に影響が出てしまう可能性がある。この照射中の条件変化に対処するため本研究では、 (1)より平易な照射体位で照射できるビーム照射孔(コリメータ)の開発 (2)患者を短時間、かつ、正確に照射位置に固定できる位置決め装置 (3)照射中の患者に付与される線量を逐次計測する技術 の3つの要素技術を開発し、それぞれの実用化を図る。さらにこの3つの技術、装置と筑波大学のBNCT用治療装置・実証機と統合し、“BNCT照射制御システム”の構築を目指すものである。2020年度は、窮屈な照射体位での照射が強いられることが多い頭頸部がんに対する照射に対して楽な姿勢で照射できるようにするため、壁面からビーム孔面が100㎜突出した形状の延長型コリメータを設計、製作した。今回の制作では、ビーム孔径:100、120、150㎜の3種類のコリメータを製作した。2021年度はこの製作した延長型コリメータのうち、もっとも使用頻度が高いと考えられるビーム孔径:120㎜のコリメータの特性測定を実施した。また、患者を照射位置に導いて固定する方法として、複数の可動式レーザー光発生器を組み合わせた位置合わせ装置の設計、製作を行った。2020年度から開発を進めている患者周辺の中性子遮蔽材に関しては国内、及び、BNCT実施が想定される複数の国(欧州、韓国、米国等)に特許出願を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の活動では、2020年に製作した3種類の延長型コリメータ:壁からの突出距離:100㎜、ビーム孔径:100、120、150㎜のうち、最も使用頻度が高いと考えられるビーム孔径:120㎜のコリメータの特性測定実験を行った。水ファントムに対する照射実験を実施した結果、ファントム内で発生する最大熱中性子束は、約7.6×108(n/cm2/s)であった。この強度は、通常型のビーム孔(ビーム孔径:φ120㎜)に対して約40%低下することを確認した。この結果を基にモンテカルロ法による線量解析では、照射時間は約55分となり、このビーム孔を用いても治療を1時間以内で完了でき、実際の治療に適用できることを確認した。 患者の位置制御に関しては、治療計画装置が導いた照射位置に患者を迅速、かつ、的確に固定するための方法として、複数の可動式レーザー光発生器を組み合わせた位置合わせ装置の試作器を設計、製作した。患者に対して天井から垂直方向に3個の十字レーザー光を照射する装置と、左右の壁から水平方向にそれぞれ2個の十字レーザー光を照射する装置を製作した。個々の十字レーザーで患者の各部位(外眼角、鼻根部、鼻尖、外耳孔等)を指し示して位置合わせを行う。2021年度はこれらの機器を製作し、2022年度に当該機器を設置して検証を行う。 2020年度に実施した低エネルギー中性子に対する遮へい能の高い新しい部材の検討に関しては、モンテカルロ解析結果を踏まえて低エネルギー中性子の吸収断面積の大きい複数の元素を添加した部材の製造手法を策定し、日本、及び、BNCT実施が想定される欧州、韓国、米国に特許出願を行った。 2020年度に筑波大学のBNCT施設に設置したリチウムシンチレータ型中性子モニター(LiCAF)を継続的に使用し、1年間の照射実験に使用して、検出効率等が低下(劣化)していないことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度の活動としては、まず、2020年度に製作した3種類の延長型コリメータのうち、残る2種類のコリメータ(ビーム孔径:100㎜、及び、150㎜)の特性測定を実施して、物理的ビーム特性評価を行い、実際の治療への適用性を評価する。 また、2021年度に製作した複数レーザー光装置による患者位置合わせ装置を筑波大学のBNCT用照射装置:iBNCT001の照射室に設置し、各レーザー光の指し示す位置精度、及び、これらを組み合わたシステムとしての患者位置合わせ精度の検証を行い、実際の治療への実用性を検証する。 リアルタイム中性子モニターであるLiCAFは、継続して特性測定を行い、付与中性子フルエンスに対する検出効率の変化を評価して、LiCAFの劣化特性を把握し、実際の治療での実用性と交換頻度等を検証する。 iBNCT001を用いた実際の臨床試験(治験)が2023年度から開始されることになったことから、開発している各機器の検証を2022年度中に完了し、これらの装置の実用化を図る。
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