研究課題/領域番号 |
20H04558
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
山口 健 東北大学, 工学研究科, 准教授 (50332515)
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研究分担者 |
柴田 圭 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所, リスク管理研究グループ, 任期付研究員 (60612398)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 転倒予防 / すべり / つまずき / 摩擦 |
研究実績の概要 |
歩行路中央に設置したフォースプレート上にあらかじめ摩擦係数の異なる2種類の床材を並べ,その上を5名の健常成人男性に歩行させた際の床反力と被験者に取り付けた赤外線反射マーカーの位置を3次元動作解析装置を用いて計測した.被験者には,それぞれ屋内歩行と屋外歩行を模擬した靴下,ウォーキングシューズを履いた条件で歩行するよう指示した.床材は,高摩擦から低摩擦へ,低摩擦から高摩擦へ変化する2種類の条件を設定した.被験者には,身長の40%の歩幅,歩行率110歩/分の通常歩行,身長の20%の歩幅,歩行率100歩/分の高齢者を模擬したすり足歩行の2条件で歩行するよう指示した.その結果,高摩擦から低摩擦に変化する条件では,通常歩行,すり足歩行ともに2枚目の床材への接地後に前方へのすべりが生じたが,転倒は生じなかった.一方,低摩擦から高摩擦に変化する条件では,高齢者を模擬したすり足歩行では,2枚目の床材への接地後に身体が前方に倒れる方向に重心周りのモーメントが増加し,前方へのつまずき転倒危険性が増加することが示唆された.このことから,高齢者に見られるすり足歩行では,足底と床面間の摩擦係数が高い場合には,つまずき転倒が生じやすいことが示された.しかし,通常歩行では,摩擦係数が増加しても前方への重心周りのモーメントは変化しなかった.以上の結果から,いずれの歩行条件においても転倒は生じなかったが,令和2年度の歩行シミュレーションで得られた転倒危険性と足底-床面摩擦の関係を支持する結果が得られた.また,令和2年度に作成した二足歩行の神経筋骨格モデルを足部及び上体を有するモデルに改良し,上記の実験と同様の歩行条件(通常歩行,すり足歩行)で床面の摩擦パラメータを変化させて,シミュレーションを行ったところ,すべり転倒,つまずき転倒が生じない好適な摩擦係数の範囲は0.4~1.1であることが明らかとなった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度では当初計画通り,通常歩行と高齢者を模擬したすり足歩行実験により,足底と床面間の摩擦係数が小さい場合には,通常歩行,すり足歩行ともに前方へのすべりが生じ転倒危険性が増加すること,一方,足底と床面間の摩擦係数が大きい場合にはすり足歩行においてのみ,前足接地直後の前方への転倒危険性が増加することが明らかとなった.この結果は,令和2年度における神経筋骨格モデルを用いた通常歩行と高齢者の歩行を模擬したすり足歩行のシミュレーションから予測された結果を支持するものである.さらに,令和3年度の歩行実験を基に改良した神経筋骨格モデルとシミュレーションの結果から,すべり・つまずき転倒防止のための好適な摩擦係数の範囲が明らかとなった.以上のことから,本研究課題は,当初の目標に対しておおむね順調に進展しているといえる.
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度では,令和3年度までに明らかとなった好適摩擦係数範囲の摩擦係数を有する靴底意匠・材料及び床材料の開発を行う.
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