研究課題/領域番号 |
20H05619
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
田中 肇 東京大学, 先端科学技術研究センター, 名誉教授 (60159019)
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研究分担者 |
山本 量一 京都大学, 工学研究科, 教授 (10263401)
古川 亮 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (20508139)
高江 恭平 東京大学, 生産技術研究所, 特任講師 (30739321)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 非均衡固体 / 運動量保存則 / アモルファス物質 / ソフトマター / 力学・熱物性 / 相分離 / 水の異常性 |
研究実績の概要 |
1)ソフトマターの力学的組織化と力学的最適設計:コロイド分散系などが気体相と液体相に相分離する際の相分離の新たな基本法則を発見した。また球対称性のため、これまで直接観察が困難であった球形コロイド粒子の回転運動の直接観察を目指し、偏芯コロイドの合成を行い、高密度のコロイド分散系において粒子回転運動の一粒子レベル観察に成功した。また山本らは、物理・生物複合モデルを用いて多細胞システムの成長ダイナミクスの予測に成功した。 (2)力学的トポロジーと流動:コロイド分散系などの相分離に伴うゲル化は、粒子間の引力により縮もうとする力の下で形成されると考えられてきたが、希薄コロイド分散系において、力学的な力に強く影響されない新しいゲル化の様式を発見した。また、古川は、固体の記述におけるラグランジュ・オイラー描像の相違に着目して、固体における波数依存の散逸機構に関して基礎的に重要な発見をした。さらに、高江らは、分子の形を制御した分子モデルを用いることで、分子形状によるトポロジカル相転移の制御、および力学的な相転移制御の可能性を示した。 (3)相互作用ネットワークトポロジーに基づくアモルファス物質の物性解明:水の異常性を、X線散乱実験データの解析から求めた液体の水の中に存在する2種類の構造の分率により説明することに成功した。また、複数原子混合系のガラス形成能を支配している主因子が、液体と結晶の界面張力であり、さらに、界面張力が、液体中に過渡的に形成される構造的な秩序(結晶前駆体)とその構造を形成する原子の組成によって決定されていることを明らかにした。また、ガラスのような乱れた構造をもつ物質に固さがあらわれる物理的な機構を解明した。また、コロイド分散系のガラス状態について、粒子の局所密度を均一化するという全く新しい方法で、非常に高い安定性を実現することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のコロイド分散系、タンパク質溶液における粘弾性相分離の新しい粗大化則の発見とその機構解明は、約40年ぶりに4つ目の自己相似性を示す粗大化の機構の発見であり、大きな成果であると考えている。また、応力フリーのゲル化機構の発見も、コロイドやたんぱく質のゲル化に、力のバランスでモルフォロジーが決まるゲル化と、力学に関係なくネットワーク構造が形成される2種類のゲル化様式が存在すること、さらには、これらの様式の選択が、体積分率のみで決まることを示したもので、基礎・応用の両面で大きなインパクトがあると考えている。 さらに、水の異常性の起源は、レントゲンをはじめポーリング、ポープルらノーベル賞受賞者を含む多くの物理・化学分野の研究者の間で、長年議論されてきた。今回の発見は、水の異常性が我々が提唱した2状態モデルで定量的に説明可能であることを示したもので、19世紀から続いていた水の特異性をめぐる長年の論争に決着をつける大きな手がかりを与えるものと期待される。 また、液体の冷却過程でガラス転移点において、応力の長距離伝達が実現されることを発見した。このことは、アモルファス物質の固体化は、「力学的構造の自己組織化」の帰結であることを示している。これらの知見は、アモルファス固体とガラス転移現象を力学的観点から理解することの重要性を明確に示唆した重要な成果といえる。 さらに、コロイド分散系のガラス状態について、粒子の密度を均一化するという全く新しい方法で、非常に高い安定性を実現することに成功した。この原理は、ガラス状態を「力学的に均一化」する、すなわち、粒子間にかかる力がどの粒子に対しても釣り合った力学的に均一な状態にするという力学的安定化法であり、従来の熱力学的な安定化法とは本質的に異なる全く新しい物理原理を提供する。 以上のような理由から、研究は極めて順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
ソフト・バイオマターの力学的自己組織化に関しては、コロイド分散系、高分子溶液系の相分離シミュレーションと実験を比較検討することで、一次元的につながった高分子の特異性、多体的流体力学的相互作用の役割、粗大化の機構を明らかにする。また、導入されたステッド機能付きの共焦点レーザ顕微鏡を用い、コロイド分散系の相分離に対する相互作用範囲の影響について研究を行う。そのために様々な大きさのコロイド粒子、偏心コロイドを合成し、コロイドの回転運動を介して、コロイド間の力学的・流体力学的相互作用についての研究を行う。また、重力下でのコロイドゲルの崩壊のダイナミクスに一粒子レベルで実験的に迫ることで、ゲルの力学的不安定化の機構を微視的レベルで解明したいと考えている。 力学的トポロジーと流動・破壊に関しては、粒子分散系の非線形流動について、流体粒子ダイナミクス法と平滑界面関数法を用いて研究を行う。また、ずり変形と体積緩和の結合に着目して、粗視化モデルに基づき、シアバンド現象、破壊現象、さらには、疲労破壊の機構解明も目指す。また、自己駆動粒子系のレオロジー特性、構造形成に関しても流体力学的相互作用の影響を中心に研究を行う予定である。 相互作用ネットワークトポロジーに基づくアモルファス物質の物性解明に関しては、過渡的力学平衡下でのアモルファス構造の力学的自己組織化について、理論的・数値的な研究を行い、特にアモルファス構造の局在振動モードと弾性・破壊特性、比熱・熱伝導特性などとの関係を調べる。また、乱雑構造の中でも、水素結合や共有結合により形成されるネットワーク構造のトポロジーは、水やシリカなど極めて重要な材料の物性と深く関わっている。そこで、熱力学的構造化により形成された正四面体構造が、運動量保存則の下でどのように力学的自己組織化するのかについて、分子動力学シミュレーションを用いて研究する予定である。
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