研究課題
本年度の研究実績を、3つの研究項目別に説明する。実施項目1「分子性強等方性物質の自在合成」においては、昨年後に引き続き、立体π共役分子であるY型C3対称分子であるトリプチセン誘導体を中心に合成を進め、3種類の新規分子の合成に成功した。現在、中性分子やイオンラジカル塩の作製を進めているが、期待通りのHoneycomb構造や、それを上回る特異な構造が続々と登場している。また、金属基板上の単分子層成長においても、それ自身や、C60 を内包したHoneycomb構造の形成が見られた。実施項目2「分子性強等方性物質の電子機能」においては、Bond Frustrationとでも呼ぶべき概念を提唱した。Diamond格子のLine Graphは、Spin Frustration格子として知られているPyrochlore格子である。すなわち、Pyrochlore格子点はDiamond 格子のボンド位置を表すと考えることができるので、Diamond格子のボンド長を2種類にするような構造変形においては長距離の周期構造を書けない場合がある。実際、Diamond構造をもつ有機バイラジカル結晶が示す、空間的に不均一で、しかも段階的な2量化相転移をBond Frustrationによって合理的に説明できることを示した。実施項目3「分子性強等方性物質の電気化学機能」においては、Liイオン電池の正極物質として知られているスピネル物質 LiMn2O4を対象として、固体電気化学レドックス制御下の磁気測定を行った。この制御によって、LixMn2O4(0.07≦x≦0.93)なる系を連続的に作製することができた。磁化率および比熱測定から、xの値が増加するとともに、Spin Glass基底状態からNon-colinear反強磁性秩序、さらに長距離反強磁性秩序が順次現れることを見出した。
2: おおむね順調に進展している
現在までの進捗状況を、3つの研究項目別に説明する。実施項目1「分子性強等方性物質の自在合成」においては、C3対称性をもつ立体π共役系分子を順調に進めることができた。これらに加え、MOFおよびCOFの合成においても、期待通りの強等方性構造の結晶化を見いだすことができた。一方、基板上における分子性Honeycomb格子の人工合成においても、トリプチセン誘導体において単結晶金属基板と整合した格子をSTM像で確認し、C60によるHoneycomb格子の安定化さえも結論することができた。実施項目2「分子性強等方性物質の電子機能」において、研究の目玉となるのが有機分子仕様の角度分解光電子分光(ARPES)システムの導入だが、別予算によってスピン検出器を購入しスピン分解光電子分光(SARPES)測定が可能となったため、この改造を進めている。当初計画よりは遅れるものの、近日中には稼働予定である。その一方、この研究項目においては、Bond Frustrationの提唱、ハニカム構造をもつMOFにおける量子スピン液体状態の初観測、立体π共役系分子の分子内の電子構造に起因するFlat Bandの理論的解明など、期待以上の成果を上げることができた。実施項目3「分子性強等方性物質の電気化学機能」においては、Liイオン電池の正極物質として知られているスピネル物質 LiMn2O4を対象として、固体電気化学レドックス制御下の磁気測定を進めることができた。さらに、発泡性無機塩を包摂させたCOFの熱分解による巨大表面積ヘテロドープ炭素材料の合成を達成し、キャパシター電極や酸素還元触媒として応用した。このように研究はおおむね順調に進展しており、取得データの論文化を進めれば、最終的には期待以上の成果が得られるものと確信している。
研究項目別に記載する。実施項目1「分子性強等方性物質の自在合成」分子性強等方性構造の自在合成を継続する。(i)立体π共役分子:研究期間の前半は、Y型C3対称分子の合成が主だったが、この系のレドックス活性をさらに高めるとともに、Δ型C3対称分子やTd対称分子の合成に着手する。(ii)MOF/COF:MOFやCOFにおいては、トリプチセン骨格をもつ配位子からMOF やCOF 合成を試み、面間に相互作用がない理想的なHoneycomb格子をつくる。(iii)表面分子:Y型C3対称分子が金属基板上につくるHoneycomb単分子膜をすでに得ているが、STS測定によってそのバンド構造を検証する。実施項目2「分子性強等方性物質の電子機能」項目1で合成した系について、それぞれの特性に合わせて磁性、電子物性、光物性を、順次検討する。固体電気化学Band Filling制御の手法を確立するとともに、レドックスによってKagomeスピン格子からHoneycombスピン格子への変換など、Line Graph物性を引き出したい。スピン分解ARPES装置を完成させ、分子性強等方性物性に発現するDirac ConeやFlat Bandなどの特異な電子バンドを実験的に直接観測するため、Band Filling 制御の効果を調べる。実施項目3「分子性強等方性物質の電気化学機能:分子性強等方性物質について、スーパーキャパシターや2次電池の電極材料として応用する。強等方性物質内の周期的巨大ナノ空孔が、巨大な蓄電容量と、スムーズなイオン輸送に寄与するかどうかを検討する。また、COFの熱分解によって得られた巨大比表面積ヘテロ原子ドープ炭素材料についても、これをキャパシタや触媒担持電極として発展させる。
すべて 2022 2021 その他
すべて 国際共同研究 (5件) 雑誌論文 (23件) (うち国際共著 2件、 査読あり 23件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (77件) (うち国際学会 21件、 招待講演 9件) 備考 (1件) 産業財産権 (2件) (うち外国 2件)
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