研究課題/領域番号 |
20H05622
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 養一 京都大学, 工学研究科, 教授 (30214604)
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研究分担者 |
船戸 充 京都大学, 工学研究科, 准教授 (70240827)
石井 良太 京都大学, 工学研究科, 助教 (60737047)
岡本 晃一 大阪府立大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (50467453)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | 発光シンセサイザー / 半導体3次元構造 / 次世代照明 / 深紫外フォトニクス / 光空間無線通信 |
研究実績の概要 |
半極性GaN基板上にSiO2マスクを形成し,その上に有機金属気相エピタキシー(MOVPE)による選択再成長を行うと,半極性および無極性からなる極性面フリーなマルチファセット構造が形成できるが,そのマスクサイズによって各ファセット面のサイズ比や形状をコントロールできる.このことは,InGaN多波長発光スペクトルの合成の自由度を高めることに繋がるため,成長発展機構の解明とモデル化に取り組み,3次元構造を所望の形状にするための指針を得た. つぎに,選択成長法によるマルチファセット構造に替わる三次元多色発光構造の作製方法の検討にあたり,MOVPEによるInGaN成長時の,In取り込み効率の結晶面方位依存性に着目し,連続的にオフ角が変化する凸レンズ形状のInGaN系マイクロレンズ構造に着目し,その試作に成功した.この構造では,基板面との傾斜角が最大で6°と非常に緩やかな三次元構造であっても,直径20μmのマイクロ全図内で100 nm近い波長変化が見られている.この結果は,開発した構造がマルチファセット構造に比較して容易なデバイスプロセスによって多色発光LEDが実現できることを示した成果である. プラズモニクス効果による発光波長選択・発光増強の研究に関しては,金属基板上に誘電体スペーサー層を堆積し,その上に形・サイズが不揃いなナノ半球をランダム配列させただけの簡単で作製が容易なNano Hemisphere on Mirror(NHoM)構造をアルミニウムで作製する構造を考案した.この構造は,スペーサー層の膜厚を変えるだけで,金属ナノ構造間の表面プラズモンモード結合を制御することができる.昨年度は,詳細な解析によって,超深紫外波長域から可視全域を含む広い範囲において増強・先鋭化した共鳴ピークをフレキシブルに制御できることを電磁場解析計算と実験によって示した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
極性面フリーなマルチファセットLEDによる多色発光動作を実証できたことは大きな成果であるが,通常の平坦膜LEDに比べて立ち上がり電圧や直列抵抗が大きいことや,LEDチップ面内での発光の均一性に課題がある.この原因として,マルチファセット構造の急峻な三次元形状により,構造全体への均一な電極形成が困難であることが挙げられる.特に,基板面と垂直をなす構造側面への電極形成など高度な技術が必要とされている.したがって,このような3次元マルチファセット構造へのプロセス技術の開発と並行して,より産業応用に適した3次元構造を探索し,より多角的なアプローチにより多色発光手法の裾野を広げるという課題にもチャレンジした. このような中で,新規な3次元構造としてGaNマイクロレンズ構造を見出した点は大きな進展であると考えている.この構造は,レジストを凸レンズ形状に熱変形させるといった自己組織的な機構により形成しており,トップダウン的な高度な加工技術を必要としない点は産業応用上の価値も高い.また,結晶オフ角が連続的に変化するため,InGaNのIn取り込まれ効率のオフ角依存性から考えて,発光波長を連続的にスイープさせることが可能である.今後は,マルチファセット方式とマイクロレンズに代表されるオフ角制御基板方式を並行して研究を推進し,各方式の利点を生かして,さらなる広帯域化と高効率化を目指して,多色発光LEDデバイスの実証を進めていく. さらに,プラズモニクス応用としては,誘電体スペーサーや半球構造など新たな発光波長選択・増強のための構造が開発されており,金属種、ナノ構造、配列によるプラズモニクス制御と3次元InGaNおよびAlGaN構造を組み合わせることで,可視域全域および近紫外から深紫外域までの広範な範囲において多波長発光が達成できる見通しは立ったと考えている.
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今後の研究の推進方策 |
(1) InGaN系3次元構造による多波長発光の研究:半極性GaN基板上へのマルチファセット構造をベースとしたInGaN系3次元構造作製に関しては,複数のマスクパターンを組み合わせることによりスペクトル合成を深化させ,多波長発光の色度座標上でのチューニング領域の拡大に取り組む.また,GaNマイクロレンズ構造上へのInGaN系3次元構造作製に関しては基板の面方位やマイクロレンズサイズによってどのように発光分布が変化するかや,配光特性などの基礎特性を評価するとともに,多波長発光の個別制御のためのプロセス加工の検討を進める. (2)InGaN系3次元構造LEDのLi-Fi応用に向けた特性評価:Li-Fi測定装置を構築し,LEDの3dB帯域(Hz)と通信速度(bps)の評価を開始する.まず通常の平坦膜LEDを用いた評価手法を確立し,窒化物半導体LEDの帯域律速メカニズムに関する理解を深める.さらに,3次元多色発光LEDの3dB帯域を評価し,多色発光による大容量化と,半極性面の高速応答による変調帯域の向上を目指す. (3) AlGaN系深紫外発光構造の短波長化:220nm域のfar UVC領域は,人体への影響が少なくウイルスのみを選択的に不活性化させるため,この波長域での高効率LED発光が喫緊の課題となっている.申請者のグループでは,半極性AlN基板上へのGaN極薄量子井戸構造やステップバンティングに形成されるAlGaN系局在発光中心が大変有望であることを見出しており,深紫外の短波長域での拡大を目指して行く. (4) プラズモニクス効果による発光波長制御・高効率化:プラズモン増強のメカニズムを解明するために既存のフェムト秒レーザーと時間相関シングルフォトンカウンターを用いて時間分解発光計測を行うとともに、サブピコ秒の時間分解能を目指してポンププローブ分光装置を構築し詳細な光学評価を行う.
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