研究課題/領域番号 |
20H05625
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
三部 勉 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 教授 (80536938)
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研究分担者 |
吉岡 瑞樹 九州大学, 先端素粒子物理研究センター, 准教授 (20401317)
近藤 恭弘 国立研究開発法人日本原子力研究開発機構, 原子力科学研究部門 J-PARCセンター, 主任研究員 (40354740)
早坂 圭司 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40377966)
飯沼 裕美 茨城大学, 理工学研究科(理学野), 准教授 (60446515)
佐々木 憲一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 超伝導低温工学センター, 教授 (70322831)
飯嶋 徹 名古屋大学, 素粒子宇宙起源研究所, 教授 (80270396)
大谷 将士 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 加速器研究施設, 助教 (90636416)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2026-03-31
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キーワード | ミュオン / 異常磁気能率 / 電気双極子能率 |
研究実績の概要 |
本研究では、従来と全く違う手法を用いた超精密測定を行い、g-2に新物理の効果が見えているのかに決着をつけるとともに、EDMを世界最高精度で探索することが目的である。通常、ミュオンビームは陽子加速器からのビームが標的で原子核反応を起こしてパイオンを生成し、その崩壊により生じるミュオンを捕獲・輸送することにより得られる。これらの過程でビームエミッタンス(位相空間体積)は大きく拡がるため、高輝度なビームを得ることができない。従来の研究では、ビームに起因する系統誤差が支配的であった。これを抜本的に解決するため、低エミッタンスのビームを用いて高効率で超高精度測定器に入射するのが本実験である。これにより、従来は不可能であった、高い効率ビーム入射、収束電場の排除、より高い磁場一様性・陽電子飛跡の完全再構成を実現し、従来の系統誤差要因を完全に払拭する点が独自である。この研究目的を達成するため、本研究では、2つの研究開発項目「A高輝度ビーム」・「B. 超高精度測定器」を設定し、新しい実験技術を実現し、新しい手法による実験を完成させ、測定を実施する。「A. 高輝度ビーム」の開発項目は、世界初の冷却ミュオンの加速による低エミッタンスビームの実現、世界初の3次元らせん入射による高効率なビーム入射と蓄積である。「B. 超高精度測定器」の開発項目は、超精密磁場測定手法と一様性が極めて高いミュオン蓄積磁場、高係数率とその変化に対して極安定に動作する飛跡検出器と飛跡再構成、これらの測定器のデータ収集・データ解析システムの構築である。これらの項目について、概ね当初の予定通りに開発を進めることができ、その一部を学術論文等に報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現時点までで本研究計画の申請時の年次計画に沿ったマイルストーンは、予定通り全て達成した。2022-2023年度は特に次に示す進展があった。従来の超低速ミュオン試験装置を用いて、S2エリアにおける1S-2S共鳴励起レーザーによるミュオニウムイオン化試験を継続し、超低速ミュオン生成の最適化を進めた。1S2S共鳴励起レーザーについては高強度化の試験を進めた。また新しく製作したg-2/EDM本実験用ミュオン源チェンバーのS2での試験を実施し、ミュオニウムイオン化を確認した。さらにこのチャンバーをRFQ加速器と組み合わせておこなう超低速ミュオン高効率加速の準備を進めた。IH-DTLについて試作空洞用大電力カプラーを接続して低電力試験・調整を行い、ミュオン加速に必要な高周波電磁場分布を得られ、ミュオン加速に必要な高周波電力での運転を実証した。DAWについては実際に製作した1つ目の空洞セル試作機の試験結果に基づいてビームダイナミクスのエラースタディを行い、物理測定に与える影響を評価した。その結果、g-2測定に十分な高品質ビームを実現できることを確認した。DLSは2022年度に製作した基準管・ブリッジ空洞の試験結果に基づいたビームダイナミクスのエラースタディを行った。実機キッカー電源と試験用模擬キッカーコイルを接続して試験を行った。キッカーコイル・キッカー電源が発するノイズが検出器に与える影響を評価した。磁石設計について、キッカーコイルの電流導入端子の最適配置のために鉄ヨークに設ける専用垂直穴の影響について、上下に穴を設けることで磁場均一度への影響を小さくできることを確認した。陽電子秘跡検出器の機械的な組み立て方法および電気的な接続試験を行うための一次試作機の作製および動作試験を行ない良好な結果を得た。
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今後の研究の推進方策 |
「A高輝度ビーム」・「B. 超高精度測定器」の開発を継続し、新しい手法による実験を完成させる。冷却ミュオン源標的チェンバーを用いて、J-PARC MLF S2エリアにおいて、ミュオンビームと1S-2S遷移レーザーを用いた試験によりイオン化およびRFQ加速器と組みあわせたミュオン冷却・加速試験を実施する。第2段加速器であるIH-DTLによる加速実証試験を目指し、準備を進める。輸送ラインに配置する電磁石群の全ての製作および、ビームライン設置前の試運転を行う。輸送ラインシミュレーションを進め、輸送ライン上のビームモニター装置の開発、蓄積磁石内部に配置するキッカー装置の制御系の開発に取り組む。磁場測定はシステム全体の完成を目指す。試作したプローブおよびz軸ステージの評価を行い、それに基づいて改良した本番用のプローブおよびステージを各4台製作する。回転方向ステージの設計試作を行い、全ての組み立てを行う。2024年度は、完成したシステムの評価を行い、必要な改造を施す。陽電子飛跡検出器は、2次試作機の作製を行い、クォータベーンの量産体制を整える。また、読み出し集積回路の全数試験を完了させる。クォーターベーンの量産を開始し、陽電子飛跡検出器として組み上げる。大規模シミュレーションデータ生成のための準備と実際の生成に取り組む。cvmfsの導入により各研究機関で特別な準備がなく計算機資源が利用可能になったため、次は計算時間の評価を行い効率的なシミュレーションデータ生成量の配分計画を立案する。並行してデータ解析システムとソフトウェアの整備も進めていく。また、DAQ middlewareを活用したDAQシステムも確立し、それに伴い実験状況を記録するデータベースの設計、構築も行っていく。
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