研究課題/領域番号 |
20H05628
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
柚崎 通介 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 教授 (40365226)
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研究分担者 |
伊佐 正 京都大学, 医学研究科, 教授 (20212805) [辞退]
渡辺 雅彦 北海道大学, 医学研究院, 教授 (70210945)
武内 恒成 愛知医科大学, 医学部, 教授 (90206946)
尾上 浩隆 京都大学, 医学研究科, 研究員 (80214196)
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研究期間 (年度) |
2020-07-30 – 2025-03-31
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キーワード | ニューロン / 神経回路 / シナプス / 細胞外基質 / 補体 |
研究実績の概要 |
神経細胞は「シナプス」と呼ばれる接着構造によってお互いに結合してさまざまな神経回路を構成する。多くの精神・神経疾患ではシナプスに異常がみられることから、シナプス形成を担う分子群の解明は基礎・臨床神経科学における最重要課題の一つである。近年、私たちは新しいシナプス形成分子として、細胞外足場タンパク質(Extracellular Scaffolding Protein: ESP)という概念を確立した。ESPは従来のシナプス形成分子とは異なり、発達時のみでなく生涯にわたって、神経活動に応じたシナプスの再編や機能を制御する。さらに、神経細胞間や、神経細胞と非神経細胞の間にはシナプスとは異なった接着構造が存在し、ESPはこのような非シナプス性接着構造にも関与することがわかってきた。本研究では、ESPに属するシナプス形成分子として、補体ファミリー分子C1q, Cbln4, C1ql1、さらに神経ペントラキシン(NP)を中心にシグナル伝達機構の解明を進める。またESP の結晶構造を元にして人工的コネクターを開発することによって、神経回路網や非シナプス性接着構造の生理的機能を明らかにし、新しい観点から脳の動作原理および精神・神経疾患の病態の解明を進める。 これまでシナプス分子に対する特異的な抗体が得にくいことや、シナプスでの分子密度が高いことなどの理由のために、シナプスシナプス分子の局在様式には不明な点が多かった。本年度はシナプス分子に対して抗原タグを挿入したマウスを作製し、かつ1000倍に脳標本を等方性に膨張させることによって、シナプス形成分子のナノドメイン構造とその形成機構を解明することに成功しNeuron誌(2022)に報告した。またシナプスの刈込み現象に関与する補体 C1q 受容体の同定とその機能を明らかにした(論文準備中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染症の蔓延防止のためにマウス飼育数の一時的な大幅削減や共同研究者の研究機関への相互訪問が大幅に制限されたこと、さらに実験を日本で行うにもかかわらず、CPTXの構造解析での研究協力者が所属する英国での非ヒト霊長類を用いた動物実験許可を得るために予想外の時間が取られたことから、研究成果の論文化がやや遅れ気味であった。しかし超解像度解析によってESPなどのシナプス形成分子のナノドメイン構造を解明した論文をNeuron誌に報告できた。また新しく同定したC1q受容体についてその生理的機能の解明が進んだ。さらに、海馬でのCbln4 受容体の多様性を解明した論文、小脳におけるC1ql1複合体の構造を明らかにした論文、扁桃体延長領域や側坐核での非シナプス性接着構造の発見と分子機構を初めて解明した論文、など重要な論文がそれぞれ投稿間際の状態となっている。したがって、達成度として「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
まず、ESPによるシナプス制御機構については、新しく同定したC1q受容体についての論文化を進める。また海馬におけるCbln1とCbln4によるシナプス制御を機構について、解明を進めて論文化する。さらに小脳におけるC1ql1が従来考えられていたように細胞接着型Gタンパク質共役受容体Bai3に加えてカイニン酸型グルタミン酸受容体KARと複合体を形成することによって登上線維ープルキンエ細胞シナプスを制御する様式についても論文化を進める。 一方、ESPを中心とした非シナプス性接着機構と役割の解明については、扁桃体延長領域における結合腕傍核入力との間の非シナプス性接着構造の形態的詳細を明らかにする。また機能的意義を明らかにするために、非シナプス性接着構造を欠損するCbln1やGluD1遺伝子欠損マウスを用いて電気生理学的解析および行動学的解析を進める。線条体における黒質よりのドーパミン作動性入力との間に形成される非シナプス性接着構造について、分子局在の解明を進めるとともに生理的な役割を明らかにする。 人工コネクターによる特定の神経回路の制御のために、すでに開発したエピトープタグノックインマウスを活用して脊髄におけるC1qファミリー分子の局在を明らかにし論文化を進める。また非ヒト霊長類を用いて脊髄損傷後の巧緻運動の回復を指標としてCPTXの効果について検討をさらに進める。さらにESPの構造を元にして設計した新規シナプスコネクターについて、培養神経細胞での検証を進めるとともに、脊髄損傷や慢性疼痛モデルを用いた性能の検証を進める。
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