研究課題/領域番号 |
20H05637
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
岩田 高広 山形大学, 理学部, 教授 (70211761)
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研究分担者 |
松田 達郎 宮崎大学, 工学部, 教授 (20253817)
宮地 義之 山形大学, 理学部, 教授 (50334511)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2024-03-31
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キーワード | 核子スピン / クォーク / 偏極標的 |
研究実績の概要 |
物質はどのようにできているのか? 物質を構成するのは電子と、原子核を構成する核子(陽子と中性子)である。電子はスピン1/2 を持つ素粒子で、その性質はよく理解されている。ところが、やはりスピン1/2 を持つ核子の構造は十分に解明されていない。核子は、スピン1/2 を持つクォーク3個が軌道角運動量:L=0で結合した複合粒子で、核子のスピンはクォークスピンの合成と考えられてきた(クォークモデル)。ところが、クォークスピンの役割が少ないことが分かってきている。結局、クォークスピン以外で核子のスピンに寄与しているものは何か? は現在も不明で「核子スピンの起源の謎」と呼ばれる重大な問題になっていた。本研究では核子スピンの起源を実験的に探究する。クォークの軌道角運動量(OAM)寄与を示すため、重陽子偏極ターゲットを用いてスピン非対称度を測定する。Sivers 関数を決定し、OAM 寄与の存否を決定する。またTransversity 関数を抽出し、標準モデルを超える理論で予想される核子の電気双極子能率(EDM)の大きさに影響するTensor-Charge を決定し、EDM の上限への示唆を与える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年5月から11月の間、160GeVのミューオンをLi6D偏極標的に入射して、データ収集をおこなった。収集した主なデータは散乱ミューオンと生成ハドロンを同時計測する、准包含深部非弾性散乱(SI-DIS)でのスピン非対称度である。この間、偏極標的は非常に順調に運転され、データ収集中は重陽子偏極度40%以上を記録した。この運転には日本からのリモートによる監視と制御が大きな役割を果たした。特に、欧州が夜間で運転者が手薄な時期における日本グループの貢献は顕著だったと思われる。結果的に、スペクトロメーターを含めた全体の実験装置も大きな問題無く働き、重陽子標的でのSI-DIS反応としては過去最大のデータ量を収集することができた。このデータを用いて重陽子スピン、散乱ミューオン、そしてハドロンの方位角の相関を解析し、様々なスピン非対称度を出すべく、解析を行っている。主な非対称度としてシバース非対称度、コリンズ非対称度があるが、前者は核子内のクォークの空間回転に敏感であり、後者は核子のスピンとクォークスピンの相関を表す。両者ともに核子スピン構造研究のために重要な量であり、今後の解析の結果が期待される。
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今後の研究の推進方策 |
今後は収集したスピン非対称度から核子内部でのクォークの状態を示すシバース分布やTransversity分布を抽出すべく、解析を継続する。おおよそ半分程度のデータ解析が終了した段階で結果を国際会議で発表し、さらに論文にまとめ出版する。さらに残りの解析を続け、すべてのデータを解析し、シバース分布、Transversity分布に関する最高精度の結果を発表するようにして、核子のスピン構造に関する知見を極めるようにする。
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