研究課題/領域番号 |
20H05647
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
小沢 恭一郎 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 准教授 (20323496)
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研究分担者 |
成木 恵 京都大学, 理学研究科, 准教授 (00415259)
青木 和也 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 素粒子原子核研究所, 研究機関講師 (70525328)
菅野 光樹 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 基礎科学特別研究員 (90826009)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | ハドロン質量の起源 / カイラル対称性 / 有限密度QCD媒質 |
研究実績の概要 |
本研究課題の中心となる物理データの本格収集は、2023年1月に予定されている。そのため、実験に用いるビームと検出器の準備を、2022年11月完成を目標に進めている。具体的には、研究計画に記述した「一次陽子ビームの高品質化」、「高バックグランド状況に対応するための新たな飛跡検出器の導入」、「電子同定装置の増強」の3点を中心に進めてきた。 「一次陽子ビームの高品質化」は、実験に用いる一次陽子ビームのビーム状況を診断するために、各種のモニター装置を本研究課題の中で準備し、2021年2月及び6月に測定を実施した。その結果、トリガー事象数が想定より大きいことが判明した。これはビーム自体の時間構造に起源があることが判明した。この結果をもとに、加速器グループやビームライングループと協議し、対応策を策定した。 「高バックグランド状況に対応するための新たな飛跡検出器の導入」に関しては、研究計画に記述したシリコン検出器の導入をドイツ・FAIR-CBM実験と協力し進めている。本研究課題の採択後から詳細設計を開始し、プロトタイプの製作に取り組んだ(右図)。当初計画では、FAIR-CBM実験で使用しているシリコン検出器をケーブル、読み出し回路まで含めてそのまま導入する予定であったが、ドイツ側との検討を進める中で、フレームサイズの変更、読み出しケーブルの長さの変更、フロントエンド回路からポスト回路への信号伝送方法の変更を実施する事で、本実験に最適な検出器・読み出し回路の配置を実現した。 「電子同定装置の増強」は、本実験の電子同定装置であるハドロンブラインド電子検出器(HBD,ガスチェレンコフ検出器の一種)、後段:鉛ガラス電磁カロリメータを、それぞれ2モジュール製作する予定である。鉛ガラス電磁カロリメータの製作を完了し、実験装置へと据え付けた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在のところ、これまでに収集したデータを用いたビームの高品質化は順調に進んでいる。ビームの時間構造の問題が新たに分かったが、その対応策も整っているため、大きな問題は生じない。 新たなシリコン検出器の導入も、設計は終了し、製作が進んでいる。現状で、新型コロナウィルス感染症の影響で、部品の納入に遅れがみられるが、その遅れは2022年度前半に吸収し、2023年1月のビームタイムには間に合う見込みである。 電子同定用検出器の増強に関しては、鉛ガラス検出器は、当初計画のスケジュールに沿って建設が進んでいる。ハドロンブラインド電子検出器も部品調達が進んでいる。読み出し回路など、新型コロナウィルス感染症の影響で、部品の納入に遅れがみられるが、その遅れは2022年度前半に吸収し、2023年1月のビームタイムには間に合う見込みである。 ビームタイムに2ヶ月ほど遅れがあることは、想定の範囲内であり、2023年度の計画の中で後れを吸収し、2024年度には当初予定の成果を出す予定である。 以上の点から、当初の計画に比較すると多少の遅れは見られているが、おおむね順調に進展しているものと思われる
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今後の研究の推進方策 |
シリコン検出器とハドロンブラインド電子検出器の製作を進め、物理データの収集を目指す。シリコン検出器は、プロトタイプのテストは終了しているため、設置用のフレームを年度前半に製作し、2022年10月に実験装置にインストールする。既に部品設計まで終了し、年度当初から製作を開始する予定である。シリコン検出器関連で、ドイツ側で製作・テスト予定のセンサー、フロントエンド回路は、物品の調達は終了している。ケーブルの製作は、2022年8月までに終了する予定で、2022年9月までに日本に送られる予定である。 ハドロンブラインド電子検出器は、物品の調達は完了しており、物品の動作確認テスト、組み立てを2022年10月までに実施する。組み立てにおいては、潮解性を持つCsI光電面の保護のために極低湿環境が必要である。また、GEM検出器内に混入する埃が放電を誘起するため、クリーンルームでの組み立てが必須である。そのため、理研に用意した施設を用いて、十分に時間をかけて組み立てを実施する。これまでの同検出器の製作の経験から、スケジュールどおりに製作が完了できる見込みがある。ハドロンブラインド電子検出器は、2022年11月に実験装置にインストール予定であるが、これは十分に余裕を持ったスケジュールである。 新型コロナ感染症の感染拡大の影響で調達が遅れている読み出し回路については、順次、手配を進めている。納入があり次第、動作確認を実施し、現場の回路に組み込む予定である。 2023年1月には、ビーム調整および物理データの収集を予定している。収集したデータは、検出器校正、運動量再構成、電子同定、各種効率や測定精度の評価などを順次、進めていく。
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