研究課題/領域番号 |
20H05648
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西村 俊二 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 先任研究員 (90272137)
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研究分担者 |
石山 博恒 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, チームリーダー (50321534)
LIANG HAOZHAO 東京大学, 大学院理学系研究科(理学部), 准教授 (50729225)
西村 信哉 国立研究開発法人理化学研究所, 開拓研究本部, 研究員 (70587625)
福田 直樹 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 技師 (80360634)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 重元素合成 / β崩壊 / 質量 / 原子核理論 / 機械学習 / 連星中性子星衝突 / 超新星爆発 |
研究実績の概要 |
中性子魔法数 N = 50, 82, 126、さらに希土類領域に渡る崩壊データの収集に成功した。収集したデータは数百種にも及ぶため、共同研究者と手分けをして解析を進めている。中性子数N=82を超える中性子過剰核Ag,Cd,In,Snの遅発中性子放出を調べた結果、遅発中性子を2個放出する現象を発見した。重元素合成計算を行った結果、第2ピークの形状、特に128,30Te,133Csに大きな影響を与えることが判った。2重魔法核78Ni領域と希土類領域の遅発中性子放出確率の結果も得ており、投稿論文3篇を準備している。質量数A=90-125領域の崩壊データの解析も進めており、非常に中性子過剰な94-99Br(Z=35)において急激な遅発中性子放出の増加が見え始めている。残りのデータ解析も進めており、多くの新半減期と遅発中性子放出確率が期待できる。2021年春には、質量数A = 200を超える領域での崩壊測定を実施した。エネルギー分解能を大幅に改善するためにシリコン半導体テレスコープを導入した。その結果、中性子魔法数N=126上の203Irを含む28種の半減期(内10種は新半減期)、新核異性体、内部転換電子に関する成果が出てきつつある。β線検出器WAS3ABiのアップグレードに伴い、波形解析型のデータ収集システムを構築した。遅発中性子測定のために、3Heプロポーショナル検出器を購入した。さらに、遅発中性子のエネルギー測定を実現するために高検出効率の飛行時間中性子検出器用を開発した。質量測定と同時に崩壊測定を実現する着想を得た。高時間分解能を特徴とするガンマ線検出器を導入するために、LBC検出器を導入した。その結果、LaBr3(Ce)と同等のエネルギー分解能、時間分解能が達成できることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の重元素合成研究は、実験、理論、計算の3部門で構成されている。特に実験パートとなるβ崩壊と質量の測定は目玉となり、装置の開発も含め、順調に実験データを収集している。すでに、β崩壊に関しては、主要な領域となる中性子数Nが魔法数となるN=50, 82に加え、新たに開発した粒子識別検出器の導入によりN=126領域、希土類領域の粒子識別を飛躍的に改善することに成功した。2021年春、海外からの共同研究者が来日できない状況の中、科研費で購入した波形処理型デジタイザーの導入を決断をした。マンパワーの絶対的不足を補うために予定通りポストドク(実験)を1名雇用した。最終的に希土類領域とN=126領域の非常に中性子過剰な原子核の崩壊測定実験を成功させた。新たに導入したZD-MRTOF装置を利用したテスト実験を実施し、目標とする性能を確認した。すでに新質量も得られている。提案している希土類領域の変形効果に着目した重元素合成の研究のために、2021年末にZD-MRTOF装置を利用した質量測定実験を提案した結果、高い評価を得て実験プロポーザルが承認された。中性子数N=104近傍で期待される中性子分離エネルギーの異変を探索する実験に向けて実験装置の調整を進めている。また、質量測定と同時に崩壊測定を実施する構想を実現するために、飛行時間型中性子検出器の製作を行った。2023年春を目処に実験を行う予定である。理論:機械学習を導入した遅発中性子の計算を行った結果、中性子魔法数N=82近傍での遅発中性子放出確率に関する理論計算の改善を確認した。今後、実験で得られる大量の測定データを取り込み、よりグローバルな理論計算を行うために予定通りポストドク(理論)を1名雇用した。計算:重元素合成の計算に関するデータベースの構築を進めており、様々な天体の爆発環境に対応した計算の土台を整えつつある。
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今後の研究の推進方策 |
RIBF加速器施設を利用し、中性子過剰核のβ崩壊、質量の測定を行う。β崩壊に関しては、シリコン半導体を利用した実験プロポーザルを実施する。より効率的な測定を実現するために新型波形処理型デジタイザーを導入を行う。ゲルマニウム検出器、LaBr3(Ce)、LBC、NaI(Tl)と組み合わせた崩壊実験を行う。ZD-MRTOF装置を利用し、中性子過剰な希土類元素の質量測定を実施する。生成した中性子過剰核を効率的に捕獲するためにヘリウムガスを冷却し充填したガス捕獲システムを導入する。捕獲した原子核は、質量分析装置MRTOFに輸送する。ガス捕獲システムを貫通し下流に打ち捨てられる残りの中性子過剰核を有効活用するために、セグメント化した高速β線検出器をガス捕獲システム内部に配置する。この高速β線検出器と飛行時間測定型中性子検出器、γ線検出器を組み合わせることにより、遅発中性子と遅発γ線のエネルギーを測定する。鍵を握る希土類原子核の質量を測定し、中性子分離エネルギー(S2n)の系統性を調べる。希土類元素のピーク形成とされる中性子数N=104近傍のS2nキンクを探索し、変形起源説の検証を行う。得られた質量情報に加え、数百種もの中性子過剰核の半減期と遅発中性子放出比の実験データをまとめる。集めた実験データは、論文に投稿する一方、原子核理論班に最新情報を引き渡し、機械学習を導入した大規模な原子核データベースの構築を行う。崩壊と質量には密接な関係性がある。半減期、遅発中性子放出確率、遅発中性子エネルギー、質量の相関から詳細な核構造研究を行う。構築した原子核データベースを現実的な天体の爆発環境に基づいた重元素合成計算に投入し、希土類元素、金・白金などの重元素合成の生成量を見積もる。古い金属欠乏星、太陽系元素組成比、連星中性子星衝突の観測データとの比較を行い、重元素の起源に関する定量的な議論を行う。
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