研究課題/領域番号 |
20H05653
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
平方 寛之 京都大学, 工学研究科, 教授 (40362454)
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研究分担者 |
嶋田 隆広 京都大学, 工学研究科, 教授 (20534259)
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研究期間 (年度) |
2020-08-31 – 2025-03-31
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キーワード | 材料強度 / 電子 |
研究実績の概要 |
本年度は、1.実験システムの構築と基礎実験データの取得、および2.電子/ホール注入材に対する第一原理解析の計算環境整備と強度解析に取り組んだ。研究実績の概要は以下の通りである。 1.昨年導入したデュアルビーム装置に、現有の力学試験装置および電子注入装置を組み込む改造を行った。構築した実験装置を用いて、典型的な共有結合性およびイオン結合性材料であるシリコン(Si)や酸化亜鉛(ZnO)などを対象として、電子/ホールの注入特性および強度特性に関する基礎データを取得した。主要な成果として、ZnOのせん断強度は電子線照射によるAnomalous電子(ホール)の注入により最大24%低下すること、および照射を停止すると元の水準に回復することを明らかにした。さらに、ホール濃度の増大に伴い強度変化量が増大すること、および強度変化には限界があることを明らかにした。この傾向は、第一原理解析による理論解析結果と定性的に整合した。また、デュアルビーム装置の集束イオンビーム(FIB)加工を用いて、ナノ構造試験体の加工に関する基礎的検討を行った。Siの円柱試験片や片持ちはり試験片を作製して、電子制御下における強度試験方法を確立した。 2.量子力学に基づく第一原理解析を行うためのコーディングならびに計算環境の整備を行った。構築した装置・手法を用いて、共有結合、イオン結合、金属結合など典型的な結合状態を有する代表材料を対象として、Anomalous電子注入材に対する予備的な強度解析を実施した。その結果、実験的に実現可能な余剰電子/ホールの注入により理想引張強度および理想せん断強度が大きく変化することを明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和3年度までに計画していた、1.実験システムの構築と基礎実験データの取得、ならびに2.電子/ホール注入材に対する第一原理解析の計算環境整備と強度解析を概ね計画通りに遂行できた。 1.において、まず、現有の力学試験装置に導電性探針を追加改造して、電圧印加による電子の制御を可能にした。さらに本装置を用いて電子量評価に関する検討を行い、電子注入試験片と導電性探針に働く静電気力を検知することで注入電子量を定量評価する独自の技術を開発した。これにより絶縁体中に注入したAnomalous 電子の存在状態を実験的に評価することが可能になった。さらに、整備した実験システムにより、半導体材料ZnO やSi を対象として、電子線照射によるAnomalous 電子の注入によって機械的特性や強度の根源である結合強度を変化させることを実証した。とくに、脆性材料の結合強度を実験的にとらえるとともに、それに及ぼすAnomalous 電子の影響を初めて明らかにした。 2.において、典型的な結合様式である共有結合性材料(C, Si, Geなど)、イオン結合性材料(MgO, ZnOなど)、および金属結合性材料(Cu, Al など)に関する系統的な第一原理強度解析を行い、負荷モード(引張、せん断)および注入・吸引(余剰電子、ホール)が理想強度に及ぼす効果に関する基礎データを取得するとともに、電子論に基づいてその強度変化メカニズムを明らかにした。 本年度までに達成した研究成果を基に、次年度以降に研究を進めることにより、当初研究計画通りの研究成果・研究目標を達成できると自己評価している。
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今後の研究の推進方策 |
実験および解析方法をさらに高度化するとともに、以下の項目について中核的な実験・解析を実施していく。 1.電子/ホール注入材に対する強度実験:引き続き、電子注入材に対する強度試験を実施する。とくに絶縁体材料に対してAnomalous 電子の注入・保持・吸引が可能であることから、これらと強度変化の関係を評価するとともに、電子によるリライタブル性の評価・実証を行う。 2.疲労・クリープ特性への展開のための実験システムの構築:研究計画の後期には、疲労特性やクリープ特性に及ぼすAnomalous電子の影響を検討する。これまでに開発した電子注入方法および力学試験方法を基に、電子/ホール制御条件下において疲労およびクリープ試験ができる力学試験方法を確立する。そのための実験システムを導入して、必要な追加改造を施す。これにより、多様な変形・破壊現象に対するAnomalous 電子の影響を解明する基盤を構築する。 3.電子注入材の強度解析、対象材候補の理論予測:引き続き、共有結合性、イオン結合性、金属結合性の典型材料を対象として電子注入材に対する強度解析を実施する。これにより、実験に供する対象材料の理論予測を行うとともに、強化機構の体系化と法則解明に向けてデータを拡充する。 4.電子応力理論の構築:電子応力理論の構築を進めるとともに、Anomalous 電子による材料強化現象に適用して、強化機構解明への基盤を構築する。
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